2025/04/06

「天動説の絵本」てんがうごいていたころのはなし

地球は丸い。地球は太陽の周りを回っている。こういうことは、今や小さな子どもでもいつの間にか知っている当たり前のことです。しかし、それは当たり前ではない時代がありました。その時代を、安野光雅さんが「天動説の絵本」に描いています。

安野光雅 作、福音館書店
銀の絵筆賞

地球が太陽の周りを回っている地動説を理解するための絵本を探し、この本にたどり着きました。
天動説が信じられていた時代には、世の不思議や迷信、未知への恐れであふれていました。そこに探求心のある人たちも次第に生じていきます。そして地球が丸く、地球は太陽のまわりを回っていると気付いた人たちへの悲しい弾圧。地球が丸くて動くことを証明したいと行動する人々の勇気。その時代の人々の心の揺れが伝わり、天動説が覆される時の緊張を垣間見、疑似体験するような感動を覚える本です。人々の地球の認識の大変革が描かれています。

安野さんはあとがきの一文にこう記しています。「天動説を信じていた昔の人々がまちがっていたことを理由に、古い時代を馬鹿にするような考え方が少しでもあってはいけません。」そして、あとがきをこう結んでいます。「・・・そうした歴史を思うと、『地球は丸くて動く』などと何の感動もなしに軽々しく言ってもらっては困るのです。この本は、もう地球儀というものを見、地球が丸いというものを前もって知ってしまった子どもたちに、今一度地動説の驚きと悲しみを感じてもらいたいと願ってかいたものです。」
壮大な歴史に向き合った作品のあとがきを、しかと受け止めました。今となっては当たり前の事実が生み出されるまでの事をおろそかにしないよう、この本を大事に読み継ごうと思いました。

以前、美術館にて安野光雅さんの作品展を観ました。私が小さい頃に読んだ絵本や大人になって手に取った絵本の作品もあり、たいへんな親しみを感じながら鑑賞できました。安野さんの作品は落ち着いたたたずまいで優しさがにじみ出ていて、細やかな描写を眺めていると、ゆったりと時間が流れていきます。そして、その穏やかさの中に、既存の概念を打ち砕く驚きに満ちた作品がたくさんあります。
地動説を理解するための絵本を探してたどり着いたのは、天動説を信じた時代の視点から描かれた「天動説の絵本」でした。この視点も私にとっては意外な驚きで、同時に安野さんの優しさと情熱が注がれた傑作だと思っています。

次回は、創造主が生物を作ったと信じられていることを覆し、宗教界から反発されたダーウィンについての本を書きます。

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