2026/06/08

「よあけ」柳宗元の漁翁をモチーフにした絵本

月明かりの中で湖の景色が次第に明け始め、朝日が注ぎ青々とした爽快な緑に包まれるまでを、短くそぎ落とされた言葉とともに描いています。
じっくり眺め、ゆっくりと読む。自然とこうなる、絵本の醍醐味を感じる作品。
唐の詩人、柳宗元の漢詩「漁翁」をモチーフにした絵本。

「よあけ」
ユリー・シュルヴィッツ 作、瀬田貞二 訳
福音館書店



「漁翁」柳宗元

漁翁夜傍西巖宿
暁汲清湘然楚竹
煙銷日出不見人
欸之一聲山水緑
廻看天際下中流
巖上無心雲相逐

「漁翁」を意訳してみました。

年老いた漁師は西岸の岩のそばで夜を明かす。
夜が明け、清らかな湘江の水を汲み、竹を焚いて朝食の支度をする。
朝もやが消えて日が昇ると、そこには姿はもう見えず、
舟をこぐ声がひと声響き、山も水面も緑に染まる。
その声に振り向くと、空と水の境目に、舟が川を下って行くのが見える。
もといた岩の上には、雲がただ流れている。

絵本「よあけ」は、漢詩の4行目までをアレンジしているようです。静かな川辺で夜明けを迎え、舟を漕ぐ音だけが響く風景に朝日が降りそそぎ、あたり一面が緑色になっていく壮大な美しさが描かれています。私はその壮大さは、山の中でキャンプをするようになって実感しました。自然の中で迎えるドラマチックな夜明けは、絵本「よあけ」の爽快さを追体験したようでした。
また、漢詩「漁翁」に出てくる人物は年老いた漁師だけですが、絵本「よあけ」には男の子も出てきます。子どもたちはその男の子に自分を重ねて、絵本の世界に入り込んでいくことができるのでしょう。 
4~6歳から楽しめると思います。小学生にもぴったりです。

原書:
"Dawn"
by Uri Shulevitz, 1974.

2026/06/06

「なみ」簡潔で爽やかな、文字のない絵本

「なみ」
スージー・リー 作
講談社 2009

波の豊かな表情と、波打ち際で戯れる少女を描いた美しい絵本。
「なみ」の表紙からは、飛び交うかもめの声と波の音が聞こえてきそうです。水色一色の波の動きが生きているようにきれいで、目を奪われていきます。少女は始めはおっかなびっくりと、そして次第に気の赴くままに、引いてはやってくる波を楽しみます。波はどんどんと少女に歩み寄り、一緒に遊ぶかのようです。 横に細長い紙面を生かし、この情景を独創的に描く工夫に魅了されます。
文字のない絵本です。

2026/06/04

「ぼくのかえりみち」

そら君は、ある日の学校帰りに、
道路に引いてある白い線の上を歩いて帰ろうと考えました。 
「この線から落ちたら大変なことになる」
そら君の帰り道は、白い線が導く冒険の世界になりました。
すると、白い線をさえぎるものが!

「ぼくのかえりみち」 
ひがし ちから 作
BL出版 2008


いつもの帰り道が、そら君の想像の世界ではハラハラする危険な冒険道として繰り広げられています。どんな冒険道なのか、絵本を開くとアッと驚きます!「この線から落ちたら大変なことになる」という意味がわかります。そして、同じように考えたことがある! と共感するかもしれません。かつて子どもだった大人の心はもちろん、そら君と同じ年頃のこどもたちの心をギュッとつかんでくれます。
お話し会にぴったりだと思います。

2026/06/02

「ほたるホテル」やなぎむらのおはなし

大きな大きな柳の木の下に、
小さな小さな「やなぎむら」がありました。
毎年夏の間に、
「やなぎむら」の虫たちは蛍たちと「ほたるホテル」を開きます。
たくさんの虫たちが泊まりにやってきます。
そこへ、困ったお客が現れました。

「ほたるホテル」やなぎむらのおはなし
カズコ・G・ストーン 作
福音館書店 1998

蛍は優しく光り、柔和に点滅しながら穏やかな曲線を描いて舞い、ただの夜の小川のほとりの草やぶでさえ、幻想的で優雅に演出してくれます。 蛍が見られる期間も場所も限られ、見る機会はなかなか得られず残念ですが、代わりに蛍の季節に読みたい絵本が「ほたるホテル」です。虫たちの世界が、優しい彩りでかわいらしく繰り広げられています。一生懸命に働いたり、得意技を披露したり、のんびりくつろいだり。個性豊かな虫たちの様子がたっぷりと描かれていて、絵を読み込むのが楽しい絵本です。また、「ほたるホテル」で過ごす心地良い時間は、虫たちみんなで力を合わせて調和し合って作ったものだと、子どもにもちゃんと伝わる絵本です。

2026/04/16

「わたし」谷川俊太郎さんと長新太さんの絵本

私、やまぐちみちこ。
男の子から見ると女の子。
お母さんから見ると娘のみちこ。
先生から見ると生徒。
キリンから見ると・・・。
アリから見ると・・・。
   
「わたし」かがくのとも傑作集
谷川 俊太郎 作、長 新太 絵
福音館書店 1981

この絵本は、自分を客観的に見る試みを最も単純に教えてくれます。「私」という存在が、様々な人たちから見るといろんな立場にあり、いろんな見方をされていることに気付きます。「自分の世界」から「他者との世界」へと踏み出した子どもたちに。


ただ、時代錯誤感はあります。初版は月刊かがくのとも1976年10月号ですので、人物の格好、色遣い、言葉などの古臭さが気になります。上に載せた画像は楽天ブックスやアマゾンで大きく見られます。
しかしすでに、私が子どもの頃に異様な雰囲気を感じていました。逆にその雰囲気におびき寄せられ、特に後半の「外人から見ると・・・。」「宇宙人から見ると・・・。」の言葉にドキドキさせられたものでした。インパクトが強いですね。

2026/04/14

「三びきのこぶた」

貧しくて子豚たちを育てられなくなった母さん豚は、
三匹の子豚たちを自分で生きていくようにと送り出しました。
子豚たちはそれぞれ、わらの家、木の枝の家、レンガの家を建てました。
そこへ狼がやってきます。
「三びきのこぶた」
ポール・ガルドン 作、晴海耕平 訳
童話館出版 1994
日本図書館協会選定
全国学校図書館協議会選定

狼は1番目と2番目の子豚を食べてしまいます。3番目の子豚は賢く、狼があの手この手でしとめようとするのを上手くかわします。そして終いには、3番目の子豚はしつこい狼をやっつけてしまいます。どのようにしてやっつけたのでしょうか?
この「三びきのこぶた」は昔話に忠実に作られ、食う・食われる関係が包み隠さずに表現されています。ところが3番目の子豚は、しつこく狙ってくる狼に対して知恵を出し、この関係を大逆転させてしまうのです。先ほど述べた「どのようにしてやっつけたのでしょうか?」という問いの答えは、もうおわかりだと思います。
食う・食われるという厳しい現実と、物語だからこそできる大逆転劇が味わえる、数少ない「三びきのこぶた」の絵本です。ポール・ガルドンの愛嬌ある明るい絵で楽しめます。

2026/04/12

「かみひこうき」

「かみひこうき」かがくのとも傑作集―わいわいあそび
小林実 作、林明子 絵
福音館書店 1976
日本図書館協会選定
全国学校図書館協議会選定
厚生省中央児童福祉審議会推薦
厚生省中央児童福祉審議会特別推薦

2種類の紙飛行機の折り方が図説してあり、つばさを工夫することによって飛び方が変わることも説明されています。これを参考にして、自分であれこれ試しながら遊べる紙飛行機遊びに直結します。私も子どもの頃、この絵本を見て紙飛行機を折って飛ばしたものでした。今でも人気があることを知って嬉しく思います。
林明子さんの優しい絵がかわいいです。
話し言葉でわかりやすく教えてくれるので、ひらがなが読めるお子さんなら一人でも読めます。

2026/04/10

「そらいろのたね」

ゆうじが模型飛行機を飛ばして遊んでいると
キツネがやって来ました。
ゆうじが宝物にしている模型飛行機とキツネが宝物にしている空色の種を、
互いに交換することにしました。
ゆうじが空色の種を蒔き、水をやると、何と家が生え育ちました。

「そらいろのたね」
中川季枝子 作、大村百合子 絵
福音館書店 1967

 種を蒔いて植物を育てると、見守るのが毎日の楽しみになります。「そらいろのたね」では、どんどん大きく育つ楽しみを不思議な物語に仕立ててあります。「ゆうじ」は、空色の種を蒔いて育てた空色の家に動物たちを招き入れますが、それを見たキツネは――。キツネの役は、他の動物ではなくキツネこそがふさわしいと納得できます。けれども、何だか憎めないキツネさんですね。

2026/04/08

「どろんこハリー」

ハリーは黒いぶちのある白い犬で、
お風呂に入るのだけは大嫌いです。
ある日、ハリーは遊びに出て泥だらけになり、
白いぶちのある黒い犬になってしまいました。
家に帰っても、家族は誰もハリーだと気付いてくれません。
そこでハリーは・・・。

「どろんこハリー」世界傑作絵本シリーズ
ジーン・ジオン 作、マーガレット・ブロイ・グレアム 絵
渡辺茂男 訳
福音館書店 1964

ハリーが楽しく無邪気に泥だらけになって遊ぶ姿は、どろんこ遊びが大好きな子ども達の共感を得ることでしょう。「黒いぶちのある白い犬」のハリーが次第に汚れて「白いぶちのある黒い犬」になっていく姿を、ページをめくる度にどこにいるのか探すのも楽しいです。どのページも幸福感のある雰囲気です。子ども心をつかんで楽しく幸せな気分に浸れるのが、何十年も愛される理由なのかもしれません。

すべてひらがなとカタカナで書かれています。

原書:
Harry the Dirty Dog
Written by Gene Zion, Pictures by Margaret Bloy Graham, 
Harper & Row, 1956.

2026/04/06

「ろくべえ まってろよ」

5人の子どもたちは、 
穴の中に落ちた犬の「ろくべえ」をみつける。
子どもたちが知恵を出し合い、
力を合わせて「ろくべえ」を助け出すまでの物語。
「ろくべえ まってろよ」
灰谷健次郎 作、長新太 絵
文研出版 1975
厚生省中央児童福祉審議会推薦図書
全国学校図書館協議会選定図書
日本図書館協会選定図書
よい絵本選定図書
子どもたちは大人たちに助けを求めましたが、大人たちは素っ気なくて少しも頼りになりません。大人が動かない中で子どもたちは自ら問題解決に挑みます。その姿に希望と頼もしさを感じ、ただ心配するだけでなく、自分にできることを考えて動くことの大切さを教えてくれます。
私が小学生の時に教科書に載っていた物語です。ニュースで穴に落ちた生き物の救出劇を聞く度に「ろくべえ」を思い出します。先日、久々に改めて「ろくべえ まってろよ」を読んだところ、何やら守ってあげたいような助けてあげたいような姿の「ろくべえ」を見て、私も5人の子どもたちの中の一人になった気分になりドキドキしました。長新太さんが描く絵の力も大きいですね。絵本を時々縦にしながら読み進めるようになっているのも楽しいです。

お話会にも良さそうです。
すべてひらがなとカタカナで書かれています。 

2026/03/20

「The Kissing Hand キスのおまじない

お母さんのもとを離れ、
学校へ行くことになったアライグマのチェスター。
チェスターはお母さんと離れることへの不安でいっぱいです。
そこでお母さんは、
代々伝わる特別なおまじないをチェスターに授けました。
おまじないはチェスターを温かく包み、勇気付けます。

「The Kissing Hand キスのおまじない」
オードリー・ペン 文、
ルース・E・ハーパー 絵、ナンシー・M・リーク 絵
入澤依里 訳
アシェット婦人画報社
絶版になりました

お母さんからおまじないをしてもらったチェスターは、お母さんの愛にいつでも包まれていることを再確認して自信を持ちます。これまで時間をかけて育んだ愛情があるからこそ、おまじないは効くんでしょうね。そしてチェスターを見送るお母さんも、チェスターの愛に包まれ、子離れへの一歩を踏み出しているのです。 
集団生活で学んで成長していく速さには驚かされ、頼もしいものです。これから幼稚園や学校での生活が始まるお子さんへの読み聞かせにおすすめです。ただ、残念ながら日本語版は今は販売されていません。
原書はいかがでしょうか。アマゾンの Kindle で中身を少しご覧になれます。


The Kissing Hand
by Audrey Penn, Ruth Harper, Tanglewood, 1993.

2026/03/10

「ちいさいおうち」

田舎の静かなところに、
きれいで丈夫な小さいおうち家がありました。
建てた人はこの家を誰にも譲りたくないほど大切にし、
小さいおうちも自然に囲まれた場所を気に入っていました。
しかし、小さいおうちの建つ田舎は街へと変わっていきます。

「ちいさいおうち」
バージニア・リー・バートン 作、石井桃子 訳
岩波書店 1965
コルデコット賞受賞

田舎の丘の上に建つ「小さいおうち」は、豊かな季節の移り変わりを眺め、家族の暮らしを見守ります。やがてこの田舎は街へと変わり、都会の街に変化を遂げ、「小さいおうち」のある場所だけが取り残されてしまいます。もはや都会の風景の中の異物のような存在です。「小さいおうち」も、ここはもう自分にふさわしい居場所ではないと感じます。主が住まなくなり忘れ去られていく「小さいおうち」はどうなるのでしょう。
物言わぬ「小さいおうち」には心があり、周囲を見て感じています。ものにも愛情を持って大切に思う気持ちが引き出されます。季節や時代の変化を眺めるのも面白いです。優しくかわいらしい色彩の絵は、飾っておきたくなる美しさです。 

日、月、木などの簡単な漢字が用いられ、ふりがなが振ってあります。
小学生の低学年のお子さんの読書にもぴったりです。

「ちいさいおうち」は、表紙が布貼り風の絵本(↑)と、小さいサイズの岩波子どもの本(↓)の2種類があります。

「小さいおうち」岩波子どもの本
バージニア・リー・バートン 作、石井桃子 訳
岩波書店 1954

2026/03/08

「ふたりはともだち」

しっかりもののかえるくんと、のんびり気ままながまくん。
ふたりはお互いを優しく思いやる最高の友だちです。
ふたりの楽しく幸せなひと時、笑ってしまうお茶目な出来事。
互いを敬うふたりの暮らしは、大切な心を教えてくれます。

「ふたりはともだち」
アーノルド・ローベル 作、三木卓 訳
文化出版局 1972

かえるくんとがまくんのシリーズを読むと、温かくて優しい穏やかな気持ちになります。その上、所々笑ってしまうエピソードがあるのが楽しいです。文章も読みやすいです。
全部で次の5話が入っており、小学2年生の教科書に載っている「おてがみ」も含まれています。親世代にも懐かしい話ですね。今読むのにぴったりの「はるがきた」が第1話です。

「ふたりはともだち」に収録の5話: 

 「はるがきた」 
待ちに待った春が来たのに、がまくんはまだ起きません。かえるくんは、何とかしてがまくんを外へ連れ出したくて妙案を思い付きました。

 「おはなし」
夏のある日、病気のかえるくんのために、がまくんはお話をしてあげることになりました。しかし、うろうろしても逆立ちしても、何をしてもお話が思い付かないのです。

 「なくしたボタン」
ふたりが外出から戻ると、がまくんはボタンをなくしたことに気付きました。ふたりは来た道を戻ってボタンを探し、話を聞いた動物たちも協力してくれます。しかし見つかったボタンはどれもがまくんのものではありません。

 「すいえい」
 ふたりは川に泳ぎに行きました。がまくんだけが水着を着ますが、その水着姿は格好悪いので、水着姿で川から出たところを誰にも見られたくありません。そこに生きものたちが、がまくんの水着姿が見たくてやって来ます。

 「おてがみ」
がまくんは手紙をもらったことがないので、手紙を待つ時間は悲しい時間なのです。それを知ったかえるくんは早速がまくんへの手紙を書き、かたつむりくんに手紙を託します。