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2026/06/04

「ぼくのかえりみち」

そら君は、ある日の学校帰りに、
道路に引いてある白い線の上を歩いて帰ろうと考えました。 
「この線から落ちたら大変なことになる」
そら君の帰り道は、白い線が導く冒険の世界になりました。
すると、白い線をさえぎるものが!

「ぼくのかえりみち」 
ひがし ちから 作
BL出版 2008


いつもの帰り道が、そら君の想像の世界ではハラハラする危険な冒険道として繰り広げられています。どんな冒険道なのか、絵本を開くとアッと驚きます!「この線から落ちたら大変なことになる」という意味がわかります。そして、同じように考えたことがある! と共感するかもしれません。かつて子どもだった大人の心はもちろん、そら君と同じ年頃のこどもたちの心をギュッとつかんでくれます。
お話し会にぴったりだと思います。

2026/04/06

「ろくべえ まってろよ」

5人の子どもたちは、 
穴の中に落ちた犬の「ろくべえ」をみつける。
子どもたちが知恵を出し合い、
力を合わせて「ろくべえ」を助け出すまでの物語。
「ろくべえ まってろよ」
灰谷健次郎 作、長新太 絵
文研出版 1975
厚生省中央児童福祉審議会推薦図書
全国学校図書館協議会選定図書
日本図書館協会選定図書
よい絵本選定図書
子どもたちは大人たちに助けを求めましたが、大人たちは素っ気なくて少しも頼りになりません。大人が動かない中で子どもたちは自ら問題解決に挑みます。その姿に希望と頼もしさを感じ、ただ心配するだけでなく、自分にできることを考えて動くことの大切さを教えてくれます。
私が小学生の時に教科書に載っていた物語です。ニュースで穴に落ちた生き物の救出劇を聞く度に「ろくべえ」を思い出します。先日、久々に改めて「ろくべえ まってろよ」を読んだところ、何やら守ってあげたいような助けてあげたいような姿の「ろくべえ」を見て、私も5人の子どもたちの中の一人になった気分になりドキドキしました。長新太さんが描く絵の力も大きいですね。絵本を時々縦にしながら読み進めるようになっているのも楽しいです。

お話会にも良さそうです。
すべてひらがなとカタカナで書かれています。 

2026/02/28

「あの路」

独りぼっちの少年と、 ある路に住み着いた三本足の犬。
「ぼく」と「三本足」は心を通わせ、
いつも寄り添っていた。
「あの路」
山本けんぞう 文、いせひでこ 絵
平凡社 2009

かつても今も孤独な「ぼく」を強く支えているものは何か。これをそっと打ち明けてくれる感動の物語です。きっと「ぼく」が一番辛かった時に、どこか似ている境遇の「三本足」と出会ったのだろうと思います。また、大切な人の死を幼くも知っている「ぼく」の心の強さや弱さ、死への恐れと喪失感も行間から伝わってきました。山本けんぞうさんの詩的な言葉と伊勢英子さんの絵は、溶け合っているように切り離せず、言葉からも絵からも物語が発せられて一つになっています。「ぼく」の心の中を覗き見るように引き込まれ、胸がいっぱいになりました。

あまり漢字にはふりがなが付いていませんが、小・中学校の教科書に載せて欲しいくらい、子どもたちにもおすすめです。

2026/01/04

「オズの魔法使い」

カンザス州に暮らすドロシーは、
犬のトトと一緒に竜巻に巻き込まれ、
家ごと「オズ」の国に飛ばされてしまう。
ドロシーはカンザスに戻るために。
エメラルドの都にいるオズの魔法使いに会いに行く。

 「オズの魔法使い」
ライマン・フランク・ボーム 作、W. W.デンスロウ 画
渡辺茂男 訳
福音館書店 1990

原題 "The Wonderful Wizard of Oz"  1900年に出版され、アメリカでは国民的作品として読み継がれています。初版のデンスロウの挿絵を復刻し、原作に忠実な日本語訳で読める「オズの魔法使い」と言えばこの本です。
アメリカ人は「オズの魔法使い」をよく知っており共通言語のように利用し、様々な登場人物や場面が比喩に用いられるのを見聞きします。例えば、ドロシーは黄色いレンガ道を進んで旅を始めますが、黄色いレンガ道を進め(Follow the Yellow Brick Road)、と言えば目標に向かって進めということを意味します。アメリカ文化の背景のひとつとして読んでおきたい物語です。
読み聞かせするとすれば何日もかかりますが、おもしろい内容で読みやすい文章なので、チャレンジしてみてはいかがでしょうか。
次回はおすすめの「オズの魔法使い」の絵本をご紹介します。

また、ミュージカル映画版も名作ですので見ておきたいですね。サントラも良く知られています。Over the Rainbow はとくに有名ですし、先ほど書いた Follow the Yellow Brick Road という曲もあります。
"The Wizard of Oz"「オズの魔法使」1939年
出演:ジュディ・ガーランド 他
DVD 楽天 / アマゾン 


「オズの魔法使い」もっとシンプルに、絵本で読むならこちらがおすすめです。朝倉めぐみさんのイラストで出版されたと知った時は嬉しかったです。ファッショナブルな絵本で感激しました。
フランク・ボーム 原作、木坂涼 文、朝倉めぐみ 絵
フレーベル館 2016
全国学校図書館協議会選定図書

2026/01/02

「十二支のことわざえほん」

「十二支のことわざえほん」
高畠純 作
教育画劇 2006

ことわざって面白い!という気持ちになること間違いなしの絵本です。十二支にちなんだ22のことわざが紹介されています。22の内訳は、兎、竜、猪は1つずつ、犬は3つ、他は2つずつ。各ことわざには簡潔な説明が添えられおり、細かい解説がなくても、わかりやすくてユーモラスな絵を見れば一目瞭然です。何度も笑いがこぼれます。学びの要素がありながら難しいことがなく楽しめて、内容も厳選されているので1冊丸ごとを一気に読み通せる達成感があるのも魅力です。

幼児からでもだいたい理解できそうです。
特に小学生におすすめです。
漢字にはすべてふりがな付き。
説明文は、「一羽、二羽」以外はほとんどひらがなで書かれています。

2025/12/30

"Snow Crystals" 雪の結晶の写真集


"Snow Crystals"
W.A.Bentley, W. J. Humphreys, Dover Publications.

前回は「雪の写真家 ベントレー」について書きました。若き日のベントレーが人々に先駆けて雪の結晶の写真撮影法を確立し、撮り続けてきた写真の数々。ベントレーが撮った神秘的で息を呑む美しさの結晶の写真集 "Snow Crystals" は、今でも人々を魅了し続けています。初版は1931年で、選りすぐり2,000点以上の結晶を系統立ててびっしりと端正に並べ、W.J. ハンフリーの文章とともに構成されています。これまで改変することなく発行されてきたそうです。静かで清らかな印象の写真集で、眺めていると心が穏やかになります。「雪の写真家 ベントレー」が好きな方にはぜひともおすすめします。 

2025/12/28

「雪の写真家 ベントレー」

1865年、アメリカ、バーモント州の豪雪地帯に生まれたウィルソン・ベントレー。彼は雪の結晶の美しさに魅せられ、10代の頃、雪の日には雪の結晶の観察やスケッチに没頭した。雪の結晶はすべてが異なる形をしているうえ、すぐに はかなく解けてしまう。これを何とか写真に残し、人々に結晶の美しさを伝えたい。こう願うベントレーは、ついに17歳の時に両親にカメラを買ってもらい、工夫や失敗を繰り返してようやく雪の結晶の美しい写真を取ることに成功した。しかし、当時はその写真に興味を持つ人はおらず、後にベントレーの雪の研究が認められて結晶の写真集が出版されるまでに何十年もの年月がかかった。そして、その写真集 "Snow Crystals" は世界中を魅了し続けている。 美しい自然を愛でるのが大好きだったベントレーの、とりわけ雪の結晶に情熱を注いだ生涯を描いた絵本。

「雪の写真家 ベントレー」
ジャクリーン・ブリッグズ・マーティン 作、メアリー・アゼリアン 絵
千葉 茂樹 訳
BL出版 1999年
コールデコット賞受賞
アメリカ図書館協会優良児童図書

雪の季節になると読み聞かせたくなる、温かな版画で描かれた絵本です。ベントレーが雪をひたむきに愛する姿と、人々にも惜しみなく雪の結晶の美しさを披露する姿には、何度読んでも心が動かされ、幸せな気持ちになります。また、農業を営む両親がベントレーのために高価なカメラを大奮発して買ってくれる場面では、親としての見事な決断力があったことを知らされます。大きな愛情と深い理解があってこそ、ベントレーは偉業を成し遂げたのですね。地元のバーモント州では有名人で、彼の功績は地元の誇りとなっているそうです。
次回は ベントレーが撮影した雪の結晶の写真集 "Snow Crystals" をご紹介します。

簡単な漢字にはふりがなは付いていませんが、小学3、4年生から自分で読めると思います。


原書:
   
"Snowflake Bentley"
by Jacqueline Briggs Martin (Author), Mary Azarian (Illustrator), 
Houghton Mifflin, 1998.

2025/12/14

「十万本の矢 ―三国志絵本―」

およそ1800年前、 中国では、魏、呉、蜀の3つの国が天下を争っていた。
中でも蜀の軍で戦略を立てていた孔明はたいそうな知恵者であった。
軍勢の強い魏を打ち破るために呉と蜀は手を組むことになり、
戦いを前に孔明は、10日以内に10万本の矢を用意するよう指示された。
実は、意図的に矢を作る職人も材料も用意されない状況にあったのだが、
孔明は3日もあれば十分だと胸を張る。
そして、約束通りに3日で10万本以上の矢を手に入れた。
自信と余裕に満ちた孔明の策略を描く物語。

「十万本の矢 ―三国志絵本―」
唐 亜明 文、于 大武 絵
岩波書店 1997

「三国志演義」の中でも重要な赤壁の戦いにおいて、人気のある「十万本の矢」の物語。この孔明の見事な武勇伝に焦点を絞って描いた絵本です。頭脳明晰で堂々とした孔明には心底から感心します。この絵本は人物が3、4頭身の親しみやすい姿で描かれ、歴史物語の情緒漂う雰囲気と戦いの緊張感がある中にも、少しコミカルな楽しさとサッパリとした後味が楽しめます。つわもの達が何だかかわいいのが私は気に入っています。

小学生におすすめの絵本です。すべての漢字には振り仮名付きです。
絵本が気に入ったら、三国志の実写版、映画「レッドクリフ PARTⅡ」もいかがでしょうか。PARTⅡの見どころである、赤壁の戦いで10万本の矢が放たれる迫力のシーンは目に焼き付きます。ただ、10万本の矢のシーンは開始40分程から登場しますが2時間20分超えの長編で、残酷な戦闘シーンが多く登場します。

「十万本の矢」の前後の話を、次に簡単にまとめておきます。
 「三国志 ― 三国志演義 ―」(集英社)を参考にしました。

 猛威を振るう曹操の軍の脅威にさらされていた劉備の軍。その軍師・孔明は、曹操軍を打ち負かすために、劉備と孫権の連合を考え、孫権に面会するため呉を訪れた。 孫権軍の軍師・周瑜は、孔明の登場に警戒していた。曹操に降伏すべきだと主張する者もいたが、孔明は巧みな話術と知恵をもって周瑜の心を動かし、曹操と戦う決意を固めさせた。 しかし周瑜は、才能ある孔明がいつか敵に回ることを恐れ、その命を奪う機会をうかがうようになる。そこで周瑜は孔明に、曹操軍と戦うための矢を10日以内に十万本用意するよう命じた。これは孔明をおとしいれるための無理難題の策だった。しかし、孔明はこう答える。「3日で十万本の矢を用意しよう。さもなければこの首を差し上げる。」 周瑜は、これで孔明を始末する口実ができたとほくそ笑んだ。 ところが、孔明は深い知識と知恵により、約束通りに3日で十万本を超える矢を手に入れたのであった。こうして周瑜の軍は、十万本を超える矢と孔明の策略を携え、天下を取ろうともくろむ曹操との「赤壁の戦い」に挑み、見事に勝利したのだった。 一方、孔明は周瑜に命を狙われていることを察していたため、十万本の矢を手に入れる前から、劉備の元へ戻る計画をたてていた。彼は自らの身を守りつつ、戦局を動かす天才軍師であった。 

 
「三国志 ― 三国志演義 ―」子どものための世界文学の森
羅貫中・作、三上修平・訳(集英社 1995)
楽天 / アマゾン

2025/12/04

「おまたせクッキー」

お母さんがビクトリアとサムにクッキーを焼いてくれました。 
そこに子どもたちが次々と遊びに来て、 
どんどんクッキーの分け前が少なくなっていき・・・。

パット・ハッチンス 作、乾 侑美子 訳
偕成社

みんなで分かち合うすばらしさを軽やかに温かく描き、最後にあっと言わせる傑作絵本です。 よく見るとクッキーは12枚あります。読み手の子供たちは、ビクトリアとサムのお母さんが焼いたクッキーが12枚であることに気付くかもしれません。分けやすい12枚という便利な数が話をうまい具合に展開させ、最後にはほっとあたたまる締めくくりとなっています。さり気なく知的なお話です。
ついでに、12枚のクッキーを人数で割る、割り算まで教えてしまいましょう!答えは絵本の中に「六つずつだね」「三つずつだ」と出てきます。数って面白い!と思う楽しいひと時になるに違いありません。
というのも・・・、3年生になるとさっそく割り算を習い、まず初めに、まさに次のような問題を考えさせられるからです。 「12枚のクッキーがあります。3人で同じ数ずつ分けると、1人分は何枚になるでしょうか。」 これを習う前に、「おまたせクッキー」を読んでおくというのはいかがでしょうか?

2025/11/24

「しあわせの石のスープ」

中国の山道を、三人のお坊さんが旅していた。
ふもとの村に降りると、村人たちは戦争により心を閉ざし、
隣人にも心を開かず、よそ者を歓迎する様子はなかった。
「この村の人々は幸せをしらぬ。」
「村人に石からスープを作ることを教えてやらねばならぬ。」
お坊さんたちはそう言い、
木の枝で火を起こし、小鍋に水を入れて火にかけた。
「石のスープを作るには、丸いすべすべの石が三ついる。」
様子を見ていた村の女の子がちょうどよい石を持ってきた。 
一番賢いお坊さんが言った。
「この石がいいスープになる。」

「しあわせの石のスープ」
 ジョン・J・ミュース 作、三木卓 訳
フレーベル館 2004
絶版になりました

石のスープ? どんなスープ? 疑問を持った私は興味深々でこの絵本を開きました。
勇気ある女の子がお坊さん達のもとに来たのに続き、村人達も石のスープに興味を持ち始めます。お坊さん達は村人に幸せをもたらすためにスープを作り始めました。村人達は、幸せをどうやってみつけるか。そして、幸せとは何なのか。あと味のいいお話です。
上の絵は、村の女の子が石を持って来る場面です。石好きの私はこの3つの石の絵が好きで、額に入れて飾りたいくらいです。アメリカ生まれの作者は、日本で石の彫刻を学んだそうです。ただの丸い石をこんなに美しく描いた作者も、石が大好きなのですね! 
「石のスープ」の絵本は他にいくつもあります。訳者のあとがきによると、「石のスープ」の話はヨーロッパの民話ですが、東洋思想に関心の深い作者は舞台を中国に移し、お坊さんが「石のスープ」の教えを広める形に再話したとのことです。積み上げられた三つの石の形は、お座りになっているお釈迦様の形なのだそうです。

漢字にはすべてふりがなが振ってあります。
小学生のお話会にぴったりの絵本だと思います。

原書:
 "Stone Soup"
 by Jon J. Muth, Scholastic, 2003.

2025/11/18

「銅版画家の仕事場」

「銅版画家の仕事場」
アーサー・ガイサート 作、久美沙織 訳
BL出版 2004
絶版になりました


この絵本に出会った時はとても嬉しかったです。絵が好きな大人が喜ぶ絵本です! すべてが銅版画で描かれています。
作者のアーサー・ガイサート氏が少年時代に携わった銅版画の仕事を再現しています。銅版画家である作者のおじいさんの仕事場の様子、道具の紹介と使い方、版画の過程が丁寧に描かれています。それだけではありません。作品を見守る緊張感が伝わってきたり、つかの間の息抜きも垣間見れ、まるで読み手の自分も仕事場にお邪魔しているような一体感を味わえます。また、少年時代の作者が仕事を手伝いながら銅版画の世界に魅せられていくのもわかります。この絵本は、銅版画家として活躍するガイサート氏の原点を描いているのではないかと思いました。
日本語版も原書も絶版なのが残念です。
アーサー・ガイサート氏の絵本は、この他にも「ノアの箱舟」と「洪水のあとで」を私のブログ内でご紹介しています。いずれもおすすめです。

2025/11/14

「大きな木のような人」

植物園に通う少女サエラと、 植物を愛でる人に惜しまず知識を分け与えてくれる植物学者。 二人は出会い、サエラは植物の息吹に魅せられていく。 瑞々しい植物園の草花や木々の絵にうっとりとさせられながら、 清々しい風が通り過ぎていくような絵本。

「大きな木のような人」
いせひでこ 作
講談社 2009

 サエラが植物園で過ごした豊かな時間を描く、温かくて爽やかな、心穏やかになる物語です。無邪気なサエラを温かく迎え入れる植物学者に、読む人はみんな逢いたくなるのではないでしょうか。花や葉を枯らしても、それを無駄にはしない植物のように、植物学者はサエラとの出会いを次につないでいきます。
「ルリユールおじさん」に出てくるソフィーがこの植物園に登場するのも素敵です。

2025/11/12

「ルリユールおじさん」

ルリユールとは製本職人のこと。
フランスの伝統芸術、ルリユールの魅力が輝く物語。
植物への高い関心を示す少女・ソフィーとルリユールおじさんとの出会いや、
ルリユールおじさんの仕事への情熱と師である父との記憶が、
透明感にあふれる清らかな絵で描かれています。

 
「ルリユールおじさん」
伊勢 英子 作
理論社 2006
講談社 2011
講談社出版文化賞絵本賞受賞

なんという素敵な絵本なんでしょう! 大人に一押しするとしたらこの絵本です。
パリの風景を描いたスケッチ画が美しいことに魅了されるだけではなく、ルリユールの仕事ぶりにも魅了されます。物語も巧みに美しく構成されていて、言葉には余韻を感じさせます。そして、ルリユールおじさんとソフィーがかつて共に見上げたアカシアの木のもとで語られるラストシーンの言葉には、大きく心を揺さぶられました。二人がそれぞれ胸に秘めた志が、確かに根を張り枝葉を広げているのだという清々しい感動を覚えました。太く高くそびえ立つアカシアの木のように。本を閉じた後も、物語の美しいハーモニーが心に響き渡ります。

あまりふりがなは振ってありませんので、自分で読むなら小学校高学年からです。
大人にも、小学生への読み聞かせにもおすすめです。

2025/11/02

「雪の女王」デンマークの女王による作品

「雪の女王」
ハンス・クリスチャン アンデルセン 原作、三辺 律子 訳
プチグラパブリッシング 2005
絶版になりました

原作に忠実なストーリーです。
漢字にはふりがなは振ってありません。

アンデルセンの国、デンマークで制作された短編映画『雪の女王』(26分)の絵本版です。映画も絵本も、当時のデンマーク女王マルグレーテ2世によるデコパージュをもとに構成されています。
デコパージュには、女王陛下が所有されていた宝石が惜しみなく使われています。夢のような一冊です。マルグレーテ2世は芸術への造詣が深く、70年代初頭には Ingahild Grathmer(ご自身のミドルネームの一部と「Margrethe」のアナグラムを組み合わせた名)の名でトルーキンの『指輪物語』の挿絵を描かれたり、衣装デザインなどの分野でも長く活躍され、芸術面でも人々を魅了し楽しませてこられました。2024年初頭に退位されるまで、52年間に渡り女王として国を導かれました。日本の皇室に次ぎ、デンマーク王室も長い歴史を誇ります。その中でも、マルグレーテ2世のご在位は特筆すべきものです。

原題(英語版):
"The Snow Queen"
A fairy tale by Hans Christian Andersen
JJ Film APS
Découpages by Her Majesty Queen Margrethe Ⅱ


短編映画 "Snedronningen"(『雪の女王』)についての情報も書いておきます。デンマーク語の作品です。デコパージュをアニメーション化し、役者も登場します。元女王による語りで進行します。

原題: "Snedronningen"
原作: H. C. Andersen, 1845.
制作年: 2000年
JJ Film APS
26分
デコパージュ・語り:  Her Majesty Queen Margrethe II
監督: Jacob Jørgensen and Kristof Kuncewicz

また、デンマークの映画『エーレンガート:誘惑の極意』(2023)では、架空の宮廷舞台のイメージを元女王マルグレーテ2世がデコパージュにより創出し、それを忠実に再現すべく、ロケ地を選んで美術やCGによって舞台を作り上げていったそうです。衣装も元女王がデザインし、監修しています。(「エーレンガート:誘惑の極意 制作の舞台裏」より)この制作の舞台裏の映像にて、元女王がデコパージュに取り組まれる様子を垣間見ることができます。

2025/10/28

「ヘンリー・ブラウンの誕生日」

主人の意思ひとつで家族が売られ、離れ離れにされてしまう奴隷。
子どもの頃から働かされ、仕事にミスがあれば容赦なく怒鳴られ、たたかれる奴隷。
世の中に自由というものがあることを知りながら、自由に生きることのできない奴隷。
これらはすべて、ヘンリー・ブラウンという奴隷のことだ。
自由を求めて命がけの逃亡を計ったヘンリー・ブラウンの半生を描いた、
本当にあった話。
「ヘンリー・ブラウンの誕生日」
エレン・レヴァイン 作、カディール・ネルソン 絵
千葉 茂樹 訳
すずき出版 2008
コールデコット賞受賞


奴隷の暮らしや奴隷の気持ちとはどんなものだったのだろう。人権について知り、考える年齢になった小学生に読んであげて欲しいと思います。今、私たちに起こるとはとても考えられないことがかつて本当にあったのだと、歴史の醜い場面を感じることができる絵本です。
ヘンリー・ブラウンは、1815年にアメリカのヴァージニア州ルイーザで奴隷の子どもとして生まれたそうです。奴隷であるがゆえ、10代の半ばに両親と引き離され、その後さらに、結婚して築いた家族とも引き離されます。そしてついにヘンリーは、奴隷の身の上から解放されるための逃亡を決心します。逃亡は想像以上に過酷なものでした。ヘンリーの命がけの逃亡とは?結果はいかに?
この絵本の中に登場する奴隷たちは皆、抑圧されたうつむき加減の視線を見せています。その陰のある硬い表情の中にも、希望の見えない表情、大切な人を見守る表情、苦悩に満ちた表情といった様々な表情を見せ、その思いが読み手・聞き手の意識に入り込んできます。魂のこもった絵と言葉に、心が打たれることでしょう。コールデコット賞オナー賞を受賞した作品です。

2025/10/22

「いちご」

「いちご」
新宮 晋 作
文化出版局 1975

いちごの魅力に、その生命力と輝きのみなぎる描写でで迫る美しい絵本です。「いちご」は、彫刻家の新宮氏が初めて試みた絵本の作品なのだそうです。大人の方々が堪能できる芸術的な絵本としてもお勧めしたいと思います。いちご栽培をしているお子様にもいいですね。
新宮氏の絵本の作品を読む時、清らかでピンと張った空気の中にいるような緊張感を覚えます。その引き締まった雰囲気の中で、作品テーマの対象物の世界に引き込まれていきます。対象物に間近に迫って圧倒されたり、その本質に感心させられたり、添えられた詩的な言葉で愛でるのを楽しませてくれたりします。その世界感は、まるで宇宙を想像する時のような、日常からふうっと離れていく感覚に似ていると私はいつも感じます。新宮氏の「いちご」の世界は、まさに宇宙へとつながって行くんです。

2025/10/18

「美女と野獣」エロール・ル・カインが描く

父親の命と、欲張りで見栄っ張りな2人の姉の命と引き換えに、 死を覚悟してケダモノの御殿に向かったキレイさん。しかしケダモノは、見かけによらず親切で優しいのです。

「美女と野獣」
ローズマリー・ハリス 再話、エロール・ル・カイン 絵
矢川澄子 訳
ほるぷ出版 1984
全国学校図書館協議会選定図書
日本子どもの本研究会選定図書
絶版になりました

「美女と野獣」の原作に近い作品をお探しでしたら、この絵本はいかがでしょうか。
キレイさんは、例えつらい状況の中でも美しいものを愛で、相手を思いやる心優しく美しい女性です。キレイさんはケダモノに出会って間もなく、見かけは恐ろしいが心は優しいケダモノの本質を見抜き、心を開いていきます。悲しみと寂しさがにじみ出た表情のケダモノに、優しく向き合うキレイさんの慈悲深い愛情に胸が打たれます。 
エロール・ル・カインの描く絵は、吸い込まれるようにうっとりする柔らかな曲線と色彩が美しいです。見開いたページの半分には絵が、もう半分には文章が書いてあり、文章は伝説の生きものたちなどの絵模様でぐるりと囲まれています。ル・カインの絵を眺めていると、不思議な物語の世界へと導かれ、引き込まれてすっかり浸ってしまいます。
文章も美しく、特にキレイさんの言葉は心から優しくて正直で素敵です。

すべての漢字にはふりがなが振ってあります。

2025/10/16

「ウォーターハウス・ホーキンズの恐竜」

1807年生まれのウォーターハウス・ホーキンズの実話に基づく物語。
ウォーターハウスは幼い頃から、まるで生きているような動物の模型を作ることに熱中していた。 やがて彼は、実物大の恐竜の模型を創り上げては、 人々を古代の世界にいざない魅了した。そこにはたいへんな作業や創意工夫を成し遂げる熱意があり、作業の妨害による苦悩もあった。

「ウォーターハウス・ホーキンズの恐竜」
バーバラ・ケアリー 作、ブライアン・セルズニック 絵
千葉茂樹 訳
光村教育図書 2003
コルデコット賞受賞
絶版になりました

大好きな物事にいつも夢中な小学生におすすめの絵本です。ひたむきな姿に心打たれ、勇気をもらうことでしょう。 
ほとんどの人々が恐竜がどんな姿をしていたのかを知りえなかった19世紀中頃、恐竜の再現のために生涯を捧げたウォーターハウスの伝記です。ロンドンの芸術家ベンジャミン・ウォーターハウス・ホーキンズは、科学者リチャード・オーウェンの協力を得て、世の中で初めて完全な恐竜の模型を創り出し、見事な演出方法で人々を魅了しました。そしてウォーターハウスはアメリカに呼ばれ、恐竜の完全な骨格標本を初めて作り上げます。そしてアメリカの博物館のための模型作りも始めるのですが、悲しい困難が降りかかります。しかし、それでも情熱を持ち続けたのでした。
ウォーターハウスの模型は、現在でもロンドンの南方にある水晶宮公園 (Crystal Palace Park) で見ることができます。
Crystal Palace Dinosaurs


ウォーターハウスの真面目さ、命を吹き込まれたような恐竜の模型の迫力が伝わってくる、きめ細かくて圧倒感のある絵です。コルデコット賞を受賞しています。
すべての漢字にはふりがなが振ってあります。

原書:
The Dinosaurs of Waterhouse Hawkins,
by Barbara Kerley (Author), Brian Selznick (Illustrator),
Scholastic Press, 2001.

2025/09/28

いつも独りで退屈な日々を送っていた貝の子、プチキューが、
まだ見たことがない美しいものを見たくて、
広い海の世界へと冒険に旅立ちます。
プチキューがついに見つけたものは・・・。

「貝の子プチキュー」
茨木のり子 作、山内ふじ江 絵
福音館書店 2006
絶版になりました

詩人、茨木のり子さんの絵本です。
寂しく退屈な毎日から抜け出す方法に気付いたプチキューが見た、うっとりする海の景色を一緒に味わえます。決して悔やまぬように自分の思いを一途に貫くプチキューと、柔らかく静かな波のごとく一つ一つ心に響く言葉は長い余韻を残します。「貝の子プチキュー」はなかなか一言では言い表せない物語で、読み手によって解釈が様々なのではないでしょうか。幼い子どもからは「かわいそう」と言う声が聞こえてくる絵本です。10歳くらいになれば、少しずつ心に訴えかけてくるものが出てくるかなと思います。

2025/09/10

「いのちのおはなし」

「生きているとは どういうことだと思いますか?」
「命は どこにあると思いますか?」
日野原先生が生徒たちに問いかけると、色々な意見が出てきます。
では、先生の答えは?
「いのちのおはなし」 
日野原重明 文、村上康成 絵
講談社 2007

高齢になっても医師をしておられた日野原先生が、「命」を大切にするとはどういうことなのかを教えてくれます。いかにも重いテーマとしてではなく、説教じみている訳でも、難しい話でもありません。この教えを受けると、自分の「命」のこれからを希望で埋め尽くして考えるようになると思います。日野原先生のこの教えから、もちろん大人も「命」について学べます。また、あとがきではもう一つの大切なこと、「心」とは何かについても書かれています。「命」も「心」も、これまでの私が抱いていた概念とは違うもので、シンプルで聡明な納得の解釈でした。ひと通り読んで、私の中で何かが変わるのがわかりました。親子でためになる、明るい絵本です。絵もかわいらしいです。

3、4年生に読める漢字にはふりがななしで、難しい漢字にはふりがな付きです。