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2026/02/28

「あの路」

独りぼっちの少年と、 ある路に住み着いた三本足の犬。
「ぼく」と「三本足」は心を通わせ、
いつも寄り添っていた。
「あの路」
山本けんぞう 文、いせひでこ 絵
平凡社 2009

かつても今も孤独な「ぼく」を強く支えているものは何か。これをそっと打ち明けてくれる感動の物語です。きっと「ぼく」が一番辛かった時に、どこか似ている境遇の「三本足」と出会ったのだろうと思います。また、大切な人の死を幼くも知っている「ぼく」の心の強さや弱さ、死への恐れと喪失感も行間から伝わってきました。山本けんぞうさんの詩的な言葉と伊勢英子さんの絵は、溶け合っているように切り離せず、言葉からも絵からも物語が発せられて一つになっています。「ぼく」の心の中を覗き見るように引き込まれ、胸がいっぱいになりました。

あまり漢字にはふりがなが付いていませんが、小・中学校の教科書に載せて欲しいくらい、子どもたちにもおすすめです。

2025/11/18

「銅版画家の仕事場」

「銅版画家の仕事場」
アーサー・ガイサート 作、久美沙織 訳
BL出版 2004
絶版になりました


この絵本に出会った時はとても嬉しかったです。絵が好きな大人が喜ぶ絵本です! すべてが銅版画で描かれています。
作者のアーサー・ガイサート氏が少年時代に携わった銅版画の仕事を再現しています。銅版画家である作者のおじいさんの仕事場の様子、道具の紹介と使い方、版画の過程が丁寧に描かれています。それだけではありません。作品を見守る緊張感が伝わってきたり、つかの間の息抜きも垣間見れ、まるで読み手の自分も仕事場にお邪魔しているような一体感を味わえます。また、少年時代の作者が仕事を手伝いながら銅版画の世界に魅せられていくのもわかります。この絵本は、銅版画家として活躍するガイサート氏の原点を描いているのではないかと思いました。
日本語版も原書も絶版なのが残念です。
アーサー・ガイサート氏の絵本は、この他にも「ノアの箱舟」と「洪水のあとで」を私のブログ内でご紹介しています。いずれもおすすめです。

2025/11/14

「大きな木のような人」

植物園に通う少女サエラと、 植物を愛でる人に惜しまず知識を分け与えてくれる植物学者。 二人は出会い、サエラは植物の息吹に魅せられていく。 瑞々しい植物園の草花や木々の絵にうっとりとさせられながら、 清々しい風が通り過ぎていくような絵本。

「大きな木のような人」
いせひでこ 作
講談社 2009

 サエラが植物園で過ごした豊かな時間を描く、温かくて爽やかな、心穏やかになる物語です。無邪気なサエラを温かく迎え入れる植物学者に、読む人はみんな逢いたくなるのではないでしょうか。花や葉を枯らしても、それを無駄にはしない植物のように、植物学者はサエラとの出会いを次につないでいきます。
「ルリユールおじさん」に出てくるソフィーがこの植物園に登場するのも素敵です。

2025/11/12

「ルリユールおじさん」

ルリユールとは製本職人のこと。
フランスの伝統芸術、ルリユールの魅力が輝く物語。
植物への高い関心を示す少女・ソフィーとルリユールおじさんとの出会いや、
ルリユールおじさんの仕事への情熱と師である父との記憶が、
透明感にあふれる清らかな絵で描かれています。

 
「ルリユールおじさん」
伊勢 英子 作
理論社 2006
講談社 2011
講談社出版文化賞絵本賞受賞

なんという素敵な絵本なんでしょう! 大人に一押しするとしたらこの絵本です。
パリの風景を描いたスケッチ画が美しいことに魅了されるだけではなく、ルリユールの仕事ぶりにも魅了されます。物語も巧みに美しく構成されていて、言葉には余韻を感じさせます。そして、ルリユールおじさんとソフィーがかつて共に見上げたアカシアの木のもとで語られるラストシーンの言葉には、大きく心を揺さぶられました。二人がそれぞれ胸に秘めた志が、確かに根を張り枝葉を広げているのだという清々しい感動を覚えました。太く高くそびえ立つアカシアの木のように。本を閉じた後も、物語の美しいハーモニーが心に響き渡ります。

あまりふりがなは振ってありませんので、自分で読むなら小学校高学年からです。
大人にも、小学生への読み聞かせにもおすすめです。

2025/11/02

「雪の女王」デンマークの女王による作品

「雪の女王」
ハンス・クリスチャン アンデルセン 原作、三辺 律子 訳
プチグラパブリッシング 2005
絶版になりました

原作に忠実なストーリーです。
漢字にはふりがなは振ってありません。

アンデルセンの国、デンマークで制作された短編映画『雪の女王』(26分)の絵本版です。映画も絵本も、当時のデンマーク女王マルグレーテ2世によるデコパージュをもとに構成されています。
デコパージュには、女王陛下が所有されていた宝石が惜しみなく使われています。夢のような一冊です。マルグレーテ2世は芸術への造詣が深く、70年代初頭には Ingahild Grathmer(ご自身のミドルネームの一部と「Margrethe」のアナグラムを組み合わせた名)の名でトルーキンの『指輪物語』の挿絵を描かれたり、衣装デザインなどの分野でも長く活躍され、芸術面でも人々を魅了し楽しませてこられました。2024年初頭に退位されるまで、52年間に渡り女王として国を導かれました。日本の皇室に次ぎ、デンマーク王室も長い歴史を誇ります。その中でも、マルグレーテ2世のご在位は特筆すべきものです。

原題(英語版):
"The Snow Queen"
A fairy tale by Hans Christian Andersen
JJ Film APS
Découpages by Her Majesty Queen Margrethe Ⅱ


短編映画 "Snedronningen"(『雪の女王』)についての情報も書いておきます。デンマーク語の作品です。デコパージュをアニメーション化し、役者も登場します。元女王による語りで進行します。

原題: "Snedronningen"
原作: H. C. Andersen, 1845.
制作年: 2000年
JJ Film APS
26分
デコパージュ・語り:  Her Majesty Queen Margrethe II
監督: Jacob Jørgensen and Kristof Kuncewicz

また、デンマークの映画『エーレンガート:誘惑の極意』(2023)では、架空の宮廷舞台のイメージを元女王マルグレーテ2世がデコパージュにより創出し、それを忠実に再現すべく、ロケ地を選んで美術やCGによって舞台を作り上げていったそうです。衣装も元女王がデザインし、監修しています。(「エーレンガート:誘惑の極意 制作の舞台裏」より)この制作の舞台裏の映像にて、元女王がデコパージュに取り組まれる様子を垣間見ることができます。

2025/10/22

「いちご」

「いちご」
新宮 晋 作
文化出版局 1975

いちごの魅力に、その生命力と輝きのみなぎる描写でで迫る美しい絵本です。「いちご」は、彫刻家の新宮氏が初めて試みた絵本の作品なのだそうです。大人の方々が堪能できる芸術的な絵本としてもお勧めしたいと思います。いちご栽培をしているお子様にもいいですね。
新宮氏の絵本の作品を読む時、清らかでピンと張った空気の中にいるような緊張感を覚えます。その引き締まった雰囲気の中で、作品テーマの対象物の世界に引き込まれていきます。対象物に間近に迫って圧倒されたり、その本質に感心させられたり、添えられた詩的な言葉で愛でるのを楽しませてくれたりします。その世界感は、まるで宇宙を想像する時のような、日常からふうっと離れていく感覚に似ていると私はいつも感じます。新宮氏の「いちご」の世界は、まさに宇宙へとつながって行くんです。

2025/10/14

「リアル・ラヴ」ショーンのために描いた絵

「リアル・ラヴ」ショーンのために描いた絵
ジョン・レノン 絵、オノ・ヨーコ 序文
 徳間書店 2000
絶版になりました

ジョン・レノンが愛するご子息のためにイラストを書き、それに言葉を添えて読み上げている素晴らしいひとときが目に浮かびます。こちらも幸せな気分になります。愛に満ちたジョンの歌のように、このシンプルでいて想像力に富んだ温和なイラストと言葉が響きます。

英語と日本語で書いてあります。

絶版ですが、ジョン・レノン公式サイトの Books タブからか中身を少し見ることができます。

2025/09/28

いつも独りで退屈な日々を送っていた貝の子、プチキューが、
まだ見たことがない美しいものを見たくて、
広い海の世界へと冒険に旅立ちます。
プチキューがついに見つけたものは・・・。

「貝の子プチキュー」
茨木のり子 作、山内ふじ江 絵
福音館書店 2006
絶版になりました

詩人、茨木のり子さんの絵本です。
寂しく退屈な毎日から抜け出す方法に気付いたプチキューが見た、うっとりする海の景色を一緒に味わえます。決して悔やまぬように自分の思いを一途に貫くプチキューと、柔らかく静かな波のごとく一つ一つ心に響く言葉は長い余韻を残します。「貝の子プチキュー」はなかなか一言では言い表せない物語で、読み手によって解釈が様々なのではないでしょうか。幼い子どもからは「かわいそう」と言う声が聞こえてくる絵本です。10歳くらいになれば、少しずつ心に訴えかけてくるものが出てくるかなと思います。

2025/09/06

「きみはおおきくて ぼくはちいさい」

小さなゾウがひとりぼっちで暮らしていた。
ある日、ライオンの城の前で眠ったところ、
王様ライオンに城へ迎え入れられた。
それ以来、ふたりはいつも一緒に過ごすようになった。
小さなゾウにとって、ライオンは多くの事を知り、多くの物を持った、
大きな存在だった。
やがてゾウは成長し、心も体も大きくなった。
その姿に、ライオンは王である気分を持てなくなり、
ゾウは城を離れることを決めた。
年月が流れ、ゾウは王でなくなったライオンと再会する。
そのとき、ゾウにとってライオンは ――。

「きみはおおきくて ぼくはちいさい」
グレゴワール・ソロタレフ 作、武者小路 実昭 訳
にいるぶっくす 2004
絶版になりました

まだ幼くて小さかった頃のゾウが、心のよりどころにし、敬っていた王様ライオン。そのライオンよりもずっと大きなゾウに成長しても、ライオンが王位から転落しても、ゾウにとって、ライオンに対する立場も気持ちも変わりません。落ちぶれてしまったライオンを前に、大きなゾウは、幼く小さかった頃と変わらずにこう言います。「君(ライオン)は大きくて、ぼくは小さい。」 ゾウの相手を敬う謙虚で優しい気持ちが、ライオンを温かく迎え入れます。
ゾウの大きな心には感銘を受けます。とても良書だと思うのですが、残念ながら長らく絶版状態です。語りかけるような意味深い絵が、つややかなアクリル画で表現されている美しい絵本です。 

すべての漢字には振り仮名付きで、読みやすい文章です。 
同じ作者のこちらの作品は、とても考えさせられる深い物語です。
「もうぜったいうさちゃんってよばないで」
グレゴワール・ソロタレフ・作

2025/09/04

「もう ぜったい うさちゃんって よばないで」

ぼくの名前はジャン・ニンジンスキー。
けれども大人たちはぼくのことを「うさちゃん」と呼ぶ。
そんなのは嫌なのに、わかってくれない。
だからぼくは、「うさちゃん」なんて呼ばれない方法を考えた。

「もう ぜったい うさちゃんって よばないで」
グレゴアール・ソロタレフ 作、末松 氷海子 訳
リブリオ出版 1989
絶版になりました

周囲の人たちは、身体が小さいジャンを「うさちゃん」と呼んでいます。そう呼ばれるのが嫌なのに理解されない寂しさから、ちゃんと名前で呼んでもらうためにジャンは独りで考え、ある行動に出ます。しかしそれは常軌を逸したものでした。
ジャンは刑務所に収監されます。そこで出会ったのが、自分よりも小柄なウサギのジム。猟師の命を奪って刑務所に入ったジムは、「そうしなけりゃ、こっちがやられちまったんだぞ」と語ります。ジャンとジムは親しくなり、ついには刑務所を脱走して森へ。ジャンの祖父に助けられ、今もふたりは誰にも見つからない場所で、身を潜めて暮らしています。

この絵本は、このような強烈な問題を提起している物語です。ジャンは、大人たちに一人前として認められないもどかしさに苦しみ、はめを外しすぎてしまいました。ジムの「そうしなけりゃ、こっちがやられてしまったんだぞ」という言葉は、ジャンの心境と重なります。
大人の何気ない態度が気付かぬうちに子どもを傷付け、壊してしまうことがあるのだという痛烈なメッセージが伝わってきます。こういった啓蒙により、自分を見つめなおしたり、反省したりするきっかけにもなると思いました。
大人向けの物語かも知れません。子どもにこの物語を読ませたいかどうかは判断に迷いますが、読むならば、ジャンに起こった出来事について考えることがたくさんあると思います。

すべてひらがなとカタカナで書かれています。

2025/07/16

「ちいさなあなたへ」

アリスン・マギー 作、 ピーター・H・レイノルズ 絵
なかがわ ちひろ 訳
主婦の友社  2008


この絵本では、子どもが母親を頼る姿、母親が成長を見守る様子、子の将来を案ずる母親の気持ちなどが、端的に素直に表現されています。共感して胸がいっぱいになる母親は多いと思います。まるで母親の子への気持ちを代弁するような絵本です。しかし、絵本が代弁する必要はないのでは?と思うので、「母親のため」の絵本なのだと私は思いました。
「母親のため」の絵本なのだと思う理由は他にもあります。
例えば、忙しくて子が見えなくなる時、思わず怒鳴ったり手を上げそうになって葛藤する時、この絵本の存在は、子を大切に思う気持ちを取り戻してと戒めてくれます。
また、この絵本の最後には母親への課題があります。大人になった娘や息子がいつか母親を思い出す時、どんな母親だったと思い出すのか、そして母親としてはどのように思い出して欲しいのか。母親としての生き方を考えさせられる場面があるのです。 
何と言うか、ノウハウは書かれていないけれども導いてくれる「育児書」のような、子どもと心から向き合う力をくれる絵本です。原題は Someday で、「いつか」を思い描いて、今を大切に生きるのを促されるような作品です。

原書:
"Someday"
by Alison McGhee (Author), by Peter H. Reynolds (Illustrator), 
Atheneum Books for Young Readers, 2007.

2025/07/04

「ZOOM ズーム」文字のない絵本

イシュトバン・バンニャイ 作
復刊ドットコム


赤い表紙をめくると、次に表れる絵は赤いギザギザの形をした「何か」。次のページをめくるとオンドリの姿が現れ、前項の赤いギザギザはとさかだったのかとわかります。次のページにはオンドリとオンドリを眺める子どもたちの姿が現れます。この様に、ページをめくる度に見るものがズームアウトされていきます。しまいにはどんな場面になるのでしょう⁉ 
子ども時代に誰もが思い描く、絵の中に絵が描いてあって、その絵の中にも別の絵が描いてあって、その絵の中にもまた・・・というような世界観が巧みに表現されています。そして、何気ない日常がどこかとつながり合っているんだと感じる驚きと嬉しさがある絵本です。大人向けの絵本かもしれませんが、大人だけが楽しむのはもったいない!子どもたちにも楽しんで欲しいと思います。
日本語版には最後に谷川俊太郎さんの詩が載っています。

文字がないので洋書を選んでも素敵ですね。
アメリカの amazon を見ると、購入者が投稿した動画で洋書版の中身を確認できます。ハードカバーとペーパーバックの両方が投稿されています。

原書: 
"ZOOM"
by Istvan Banyai, Puffin Books, 1998. 
ペーパーバック版

2025/05/18

「ともだちがほしかったこいぬ LONESOME PUPPY」

ぼくはいつも独りぼっちで寂しかった。 
本当だよ。
どうしてかと言うとね ――。

「ともだちがほしかったこいぬ LONESOME PUPPY」
奈良美智 作
マガジンハウス 1999

この「こいぬ」が寂しかった理由は、その存在が世間一般とかけ離れていているから。けれども、そんな「こいぬ」に振り向いて興味を示し、戸惑いながらも心地良く接してくれる女の子が現れました。「こいぬ」と女の子との程良い関係をほほえましく感じます。
ひと目で奈良氏の作品とわかる強烈な表情に圧倒されつつ、優しい色合いでキュートな癒しの絵もあり、ファンは楽しめることと思います。

2025/04/20

「まってる。」大人が欲しい絵本

ある男の子が家族のに幸せに包まれて成長する。
大人になり大切な人と出会って結ばれ、
新しい家族を作る。
年老いて、大切な人を失う悲しみと、
新たな家族を迎える喜びを得る。
一人の人生を、20数個の「まってる。」という言葉を添え、心のアルバムをめくるように描かれています。

     
デヴィッド・カリ、セルジュ・ブロック、小山薫堂 訳
千倉書房


小山薫堂さんが訳した、横に細長い洒落た絵本です。中身のページはラフな黒い線のイラストに赤い毛糸の写真を用いているのが印象的です。
待つことの先には、毎度繰り返すできごともあれば未知のできごともあり、心が膨らむ楽しみや期待もあれば、心が押しつぶされそうな不安や悲しみへの覚悟もあるのですね。日常当たり前のあらゆる待ち時間の中に、こんなにも人の人生が反映されているとは。この絵本を読んで、このような考えに初めて思いをめぐらせました。読めば読むほど味わい深くなり新しい考察が舞い降りてくる、イラストや行間に読み手の心理や人生が映し出される絵本だと思います。月日が経つ速さに驚く毎日の中で、「待つ」ことの意味や重さを考えさせられます。大人向けの絵本かなと思います。