2025/07/14

「ガンピーさんのふなあそび」

ガンピーさんが舟に乗って出かけると、
子どもたちが、一緒に連れてってといいました。
「いいとも」とガンピーさんは言いました。
ウサギも猫も犬も、もっとたくさんの動物たちも、
乗りたいと言ってやってきました。
ガンピーさんは、みんなを乗せて出かけます。

 
ジョン・バーニンガム 作、光吉夏弥 訳
ほるぷ出版
ケイト・グリーナウェイ賞受賞


ガンピーさんのような舟に乗ると、心地よく揺れながら、水の音、川辺の草木のそよぐ音に耳を澄まし、前にも後ろにも続く川を眺め、浮世離れしたひと時を過ごせます。それから、もしかして川に落っこちたりして・・・という不安もちょっぴりよぎります。そのような、ふんわりして穏やかな、でも少しドキドキの気持ちで読める絵本です。舟がとんでもない状態になっても淡々と話が進んでいくのが楽しく、ガンピーさんの温かく広い心、慌てず落ち着いた行動に和まされます。ガンピーさんは、舟をこいで川を渡ることを愛しているのでしょう。読む人にもその楽しみを分けてくれます。 柔らかく優しい絵が、幸せな気分を盛り上げてくれます。ジョン・バーニンガム作の絵本の中でもいちおしの素敵な絵本です。

2025/07/12

「ロバのおうじ」グリム童話

何よりも自分の財産が好きな王様と、 何よりもきれいな衣装が好きなおきさき様は、
とても幸せで広く平和な国を治めていました。
ただ、二人には子どもだけはどうしても欲しいが授からず、
魔法使いの力を借りて子どもを授かります。
しかし、王様が魔法使いをだましたため、
生まれてきた王子はロバの姿をしていました。
「ロバのおうじ」 グリム童話より
M.ジーン・クレイグ 再話、バーバラ・クーニー 絵、もきかずこ 訳
ほるぷ出版
全国学校図書館協議会選定図書
日本図書館協会選定図書
日本こどもの本研究会選定図書


ロバの王子は、生まれ育った城ではからかわれ相手にされません。つらい気持ちがチクチクと伝わってきます。一方、旅立って新たな暮らしを始めた城では、ロバの王子は認められて慕われます。こちらの城の人々は、治める王様と同じく良い物事を愛でることのできる人々ばかりです。そこでのロバの王子の心地良く満たされた気持ちが伝わってきます。幸せに包まれて話が終わり、読んでいて嬉しい気持ちになります。絵がとても素敵で、ロバの王子とお姫様が特にかわいらしく、その穏やかで優しい雰囲気がハッピーエンドの嬉しさを盛り上げてくれます。
すべてひらがなとカタカナで書かれており、読みやすい文章です。
小学2、3年生くらいからの音読学習にもよいと思います。

《あらすじ》
ロバの王子は賢く、振る舞いは品行方正です。けれども姿がロバであるために城の者たちにからかわれ、王様もおきさき様もかまってくれません。ロバの王子は一人さびしく暮らします。やがてロバの王子はリュートの弾き方を教わり素晴らしい腕前になります。ところが王様もおきさき様も、そのリュートのすばらしい音色にさえまったく関心を示しません。ロバの王子は悲しくなり、王子の装いを脱ぎ捨ててお城を後にし、あてもなく旅に出ました。 ロバの王子は立派なお城にたどり着き、リュートを奏でる腕前が認められ、城で暮らすよう迎え入れられました。このお城の人たちは皆、ロバの王子のふるまいに好意と敬意を持ち、リュートの音色に魅せられ、ロバの姿であることを気にもしません。そしてロバの王子は、大好きなお姫様に、お姫様もロバの王子が大好きであることを打ち明けられます。ロバの王子は、魔法使いが掛けた魔法によりロバの姿で生まれてきましたが、誰かに心から愛されるようになるまでロバの姿のまま、という魔法でした。お姫様の思いはたちまち魔法を解き、ロバの王子はりりしく美しい若者の姿になります。王子とお姫様は結婚し、幸せに暮らします。

2025/07/10

「なつのいちにち」

一人、この手でカブトムシをつかまえたい。
素朴な田舎の豊かな自然を背景に、
男の子はひとつの思いを胸にまっしぐらに駆け抜ける。
真夏の太陽のように輝く忘れられない日を描く、
とびっきり素敵な絵本。
  
はたこうしろう 作
偕成社
全国学校図書館協議会選定
日本図書館協会選定
社会保障審議会推薦文化財
児童福祉文化賞推薦作品

 

照りつける太陽、豊かな緑と涼しい木陰。流れる汗も気にせず駆け抜けた幼い頃。
「なつのいちにち」のページをめくるとそんな記憶がよみがえります。主人公の少年が、かつての自分に重なるように思えてきます。そして、少年がクワガタムシを求めて胸を高鳴らせながら駆け抜け、あきらめずに挑戦する姿を応援してしまいます。少年のまっすぐな情熱は、真夏の色鮮やかな緑よりも一層みずみずしい輝きを見せてくれます。文字が少ない絵本ですが、少年と共に高揚感や喜びを味わい堪能できる絵本です。この少年のような記憶を持つことって素敵です。いつまでも消えることのない宝物になることと思います。

この絵本に出てくる「クマゼミ」はどんなセミか。クマゼミの北限は関東南部だそうです。東日本に住んでいると知らないセミかも知れません。西日本にはいます。クマゼミが元気な地域に住んでいると、真夏には毎朝シャーシャーというけたたましいクマゼミの群れの鳴き声で目が覚めます。並木を見ると、あっちの枝にもこっちの枝にもセミが列を作るようにわんさと並んでいて、シャーシャーと大合唱しています。からだはアブラゼミよりもずっと大きくて、虫取り網がなくても手でつかまえられるニブさです。クマゼミは西日本では当たり前の夏の風物詩。「なつのいちにち」の舞台はおそらく西日本なのですね。

2025/07/08

「こぐまくんのハーモニカ」

こぐまくんの母さんはお話を書く人、父さんはハーモニカの演奏家。
夜は父さんのハーモニカが子守唄になり、
母さんがお話をして寝かせてくれます。
こぐまくんは父さんからハーモニカをもらい、
どんどん上手くなってたくさんの人に褒められます。
ところが「こぐまくん」の心には迷いが生じ、吹くのをやめてしまいます。

 
ジョン・セバスチャン 作、ガース・ウィリアムズ 絵
三木卓 訳
リブリオ出版
絶版になりました


包み込む優しさに満ち、経験に基づく示唆に富んだ物語です。
人と比べられることにマイナスの気持ちを抱く人は多いものです。しかし、得意なことや優れているプラスの面を知るにも、周囲と比べて見定めているものです。比較した結果をどう受け止めるかによって、気持ちの持ち方に明暗が分かれます。
「こぐまくん」はハーモニカが上手いことを褒められますが、次第に好意的に受け止められなくなっていき、ハーモニカを吹くのをやめてしまいます。それは、プロのハーモニカ奏者であるお父さんのようになれるかもしれないよ、という賞賛のためでした。「どうしてみんなは、お父さんと比べたがるんだろう」という「こぐまくん」に、お母さんはわかりやすく答えます。そして、「大人になったらきっと父さんみたいになるって、みんなが言う。・・・父さんはそうなって欲しい?」という「こぐまくん」の問いに、お父さんは温かい言葉で「こぐまくん」を包んで満たします。お母さんもお父さんも、「こぐまくん」の戸惑う心を受け止め、自分の気持ちをまっすぐに伝えています。見習いたいと思いました! その言葉をぜひ絵本で確かめてみてください。(残念ながら、日本語版も原書も絶版状態ですが。)
挿絵はガース・ウィリアムズによるもので、白黒の繊細な線画で愛らしい「こぐまくん」の心の揺れを巧みに描いています。
この絵本の作者ジョン・セバスチャンは、アメリカのバンド、ラヴィン・スプーンフルを結成し、ハーモニカ奏者としても知られているそうです。「こぐまくん」のお顔に似ていますね。

日本語版も原書も絶版状態です。

原書: J.B.'s Harmonica
Written by John Sebastian / Illustrated by Garth Williams
Published by Harcourt Children's Books, 1993

2025/07/06

さわる絵本「これ、なあに?」

ザラザラくんは丸い家に、バラバラくんは三角の家に住んでいます。
ザラザラくんはまっすぐな道を歩き、バラバラくんを探しに行きます。
出会ったポツポツちゃんとシマシマくんは、
一緒にくねくねした道を歩いて探してくれます。
四角い広場にツルツルくんがいました。
あれ!ツルツルくんの後ろに、バラバラくんがいました!

 
バージニア・A・イエンセン、ドーカス・W・ハラー 作
きくしま いくえ 訳
偕成社

 
ザラザラ、バラバラ、ポツポツ、シマシマ、ツルツル。この名前は、キャラクターたちの見た目そのものです。そして、触った感じそのものです! この本は点字の技術が生かされ、絵の黒い部分が盛り上がっているので、指先で触って感じ取ることができるのです。 丸い家、三角の家、四角い広場、まっすぐな道、くねくねした道も、指で文字通り感じ取ることができます。色も形もシンプルに抑えた上品で美しい絵ですので見るのも楽しいです。丈夫な紙を使っており、リング綴じでしっかり開き使いやすいです。小さなお子さんがどんどん見て触って大丈夫です。
私が子どもの頃、他にない特徴を持つこの絵本が大好きでした。点や線の盛り上がった所が、引っかいたら取れるんじゃないかとやってみたのにビクともしなかったのを覚えています。実家にあったこの絵本はいつの間にか誰かの手に渡り、私もすっかり存在を忘れていましたが、本屋で偶然にこの絵本に再会して一気に思い出しました。当時も人気のある本でした。改めて今見てもおすすめです。割高ですが、時代が変わっても斬新で美しく、目と指先で味わうという特徴を持ち、丈夫な作りを考えれば納得です。

2025/07/04

「ZOOM ズーム」文字のない絵本

イシュトバン・バンニャイ 作
復刊ドットコム


赤い表紙をめくると、次に表れる絵は赤いギザギザの形をした「何か」。次のページをめくるとオンドリの姿が現れ、前項の赤いギザギザはとさかだったのかとわかります。次のページにはオンドリとオンドリを眺める子どもたちの姿が現れます。この様に、ページをめくる度に見るものがズームアウトされていきます。しまいにはどんな場面になるのでしょう⁉ 
子ども時代に誰もが思い描く、絵の中に絵が描いてあって、その絵の中にも別の絵が描いてあって、その絵の中にもまた・・・というような世界観が巧みに表現されています。そして、何気ない日常がどこかとつながり合っているんだと感じる驚きと嬉しさがある絵本です。大人向けの絵本かもしれませんが、大人だけが楽しむのはもったいない!子どもたちにも楽しんで欲しいと思います。
日本語版には最後に谷川俊太郎さんの詩が載っています。

文字がないので洋書を選んでも素敵ですね。
アメリカの amazon を見ると、購入者が投稿した動画で洋書版の中身を確認できます。ハードカバーとペーパーバックの両方が投稿されています。

原書: ZOOM by Istvan Banyai, Puffin Books, 1998. 

2025/07/02

「1日30分間『語りかけ』育児」

0~4歳 わが子の発達に合わせた 1日30分間「語りかけ」育児
サリー・ウォード 著、汐見 稔幸 監修、槙 朝子 訳

1日30分間、ひとりの子供に親が向き合い、関わり合い、対話する。これを提唱している本です。
子供と満たされた気持ちを共有する時間は、それだけで完璧な時間だと思います。心の支え、心の栄養は、完璧な時間の積み重ねが与えてくれるのかもしれません。私はそう思ってこの本を参考にしました。30分間はあっという間の時もありますが、向き合う30分を毎日捻出するのは大変なことだと実感しました。私の場合毎日子供1人につき30分とはいきませんでしたが、向き合い心を通わせようと努めてきました。育児書はいくつか読んだと思いますが、常に思い出して心掛けたのはこの本の教えでした。
絵本の読み聞かせを日課にしてきたのもこの本の影響です。読み聞かせは「語りかけ」育児の趣旨とは異なりますが、絵本を囲んだ満たされたひと時も作れたと思います。その記憶が子供たちの心の支えになるようにと続けてきました。

日本では毎日の食事やお弁当を作ってあげることも重要と考え、手作りがたたえられ、ごはんが愛情を育むとよく言われます。あえて書くと、私自身は家での食事作りはほとんど手作りで育ててきました。けれども、基本外食でも、お惣菜を並べても、お弁当は調達でも、それと愛情の大きさとは別だと考えています。例えば台湾では外食が当たり前だったり、タイでは家にキッチンもなかったり。でも愛情には問題ない訳です。ごはんの準備は素晴らしい愛情で尊いです。しかし、ごはんの準備が大変だったり割に合わないのならば、手放して他に頼ればいいと思います。子育ては、親子が満ちた時間を共有し対話すること第一でいいと思います。
また、日本では幼い子供と親が一緒に入浴するのは当たり前でも、他の国ではシャワーだけ浴びるのが普通だし、子は親の裸を見た覚えがないのも当たり前だったりします。でも日本らしく、親子でお風呂のついでに30分心を通わすのも、対話の時間を捻出する手だと思います。著者のサリー・ウォード先生は驚くかもしれませんね。