2025/05/22

『うみのむこうは』

砂浜に立って海を眺める女の子の後ろ姿。
女の子はじっと立ったまま、 海の向こうには何があるのかなと思い巡らせます。

   
 五味太郎 作
絵本館 
 

下から3分の1の女の子と海の絵は、表紙から最後まで同じです。上から3分の2の空の部分を白いキャンパスに見立てるようにして、女の子は「キャンパス」いっぱいの空想を描いていきます。水平線上の船がページをめくるたびに進んで行き、時間の流れを感じさせてくれます。最後の方で女の子が思い描く「だれか」の場面が私はとても好きで、ぜひとも手にとって読んでみて欲しいとお勧めします。ここで一気に心が捕らえられることでしょう。
誰もが子どもの頃、同じように空想に浸ったことがあると思います。再びそれを疑似体験したり、共感したりできる素敵な絵本です。絵はどのページも額縁に入れて飾りたいような美しさで感銘を受けます。私の手元にある『うみのむこうは』は古い月刊「かがくのとも」(福音館書店)で、経年のため茶色っぽくなっていますが、大事に読み継いでいます。

文は1~2歳くらいからでもわかるシンプルなものです。
味わいを噛みしめられるようになるのはもっと先のことかも知れません。
また、自分で音読を始める頃に選ぶ本としてちょうどよさそうです。

2025/05/20

「ゆかいな かえる」

ゼリーのような卵からオタマジャクシがかえる。
後ろ足が生え、前足が生え、しっぽが縮みカエルになる。
4匹のカエルたちは楽しく戯れ、外敵から身を隠し、
トンボの卵や水草を食べたりして過ごす。
夏には夜通し歌い、冬は冬眠のため土の中へ。

ジュリエット・キープス 作、石井桃子 訳
福音館書店
 
 愛嬌あるカエルたちの1年の暮らしが、のびのびと愉快に描かれた作品です。知られているようで馴染みのないカエルの生態が紹介されており、落ち着いた色使いの青と緑だけで表現されています。生きものを愛するお子さんにぜひ読んであげたい楽しい絵本です。

2025/05/12

「プアー」赤ちゃんから楽しめる愉快な本

1匹の犬のからだが、 プアーっと、少しずつ、あちこち膨らんでいきます。 どんどん膨らんでいき、 しまいにはどうなってしまうのでしょう!?

長新太 作/絵、和田誠 仕上げ
福音館書店



18cm 四方の絵本です。かわいらしい犬が変形していく様子が滑稽で和みます。日本の伝統色を思わせる色彩のポップで洒落た組み合わせが、いっそうかわいらしさを引き立てていると思います。この絵本の後ろの方には、「長新太さんが亡くなる数ヶ月前に描いたラフスケッチに、和田誠さんが色を付けて完成させた」と記されています。 
ところで、私は小さい頃に、長新太さんの「ごろごろにゃーん」をボロボロになるまで読みました。得体の知れない不思議な「ごろごろにゃーん」の旅の最後に、何事もなかったように帰って行く猫たちの図太く安定感のある、ほっとする雰囲気。「プアー」の最後の場面でも、「ごろごろにゃーん」のように、ほっとさせられました。 笑みのこぼれる、愛すべき、愉快な絵本です。

2025/05/10

「おばけパーティ」人気者のおばけたち

古いお城に住むおばけのアンリは、友達みんなを晩餐会に招待しました。
アンリはフルコースの料理を次々に出し、みんなをもてなします。
それからみんなで洗い物をして、食後の飲み物を楽しみます。
すると・・・、アンリはどこ?
おばけたちが震え上がります!
ジャック・デュケノワ 作、大澤晶 訳
ほるぷ出版


幼児期の子ども達に大人気の絵本です。おばけたちは白い布をまとったような姿をしており、怖くなくかわいらしい。晩餐会が始まると、みんなはおばけなので、壁を通り抜けたり、飲んだり食べたりしたのもと似たような色や形になったり、透明になったりします。でも、うまい具合に元の白い姿に戻ります。と思ったら、また!!  おばけたちの不思議な変化が、子ども達にはとても楽しい様です。おばけたちの明るく優しい色合いが黒い壁に映え、きれいです。 文章も簡単で短く、あっという間に読み終えてしまいます。けれども、子ども達にとっては満足度が高く見ごたえのある絵本だと思います。おしゃれ度と発想力の高さがお見事です。少しの時間だけ読み聞かせをしたい時にもちょうどいいです。

2025/05/08

「わたしとあそんで」自然の中に溶け込む喜び 

「わたし」は原っぱへ行きました。
遊ぼうと思って生きものたちを捕まえようとすると、
どの生きものも逃げて行ってしまいました。
仕方なく池のそばでじっと静かにしていると、
逃げた生きものたちは、「わたし」のそばに次第に戻って来ました。
みんなが遊んでくれて、「わたし」はとっても嬉しいのです。

マリー・ホール・エッツ 作、与田準一 訳
福音館書店

 

虫や鳥、動物を捕まえようとする時、たいてい逃げられてしまいます。誰もが経験していると思います。
あいにく私には、この絵本の「わたし」のように野生生物に優しく囲まれた経験がありません。ただ、自然の中に座り込んでゆったりと辺りを見渡す時の、風を感じ、木の葉の擦れる音、鳥のさえずりを聞き、虫が地を這い宙を舞うのを愛でる、満たされた感覚は知っています。これも誰もが経験しているのではないでしょうか。こういう感覚も、自然の中に溶け込んでいると実感するささやかな喜びの一つです。
「わたし」の喜びには及ばなくても、この絵本のメッセージは読む人の様々な経験を思い出させ、気持ちにスッと入ってきます。

2025/05/06

「くまとやまねこ」

仲良しの小鳥を亡くしたクマは、 突然の悲しみで心がつぶれそうな毎日です。
クマに出会った森の動物たちは、クマの事情を知ると、
決まって小鳥のことは忘れるようにと言うのです。
とうとうクマは、家に独りこもるようになってしまいます。
ある日、いい天気につられて外に出たクマは山猫に出会います。
山猫はクマの深い悲しみを感じ取り、クマを慰めます。
山猫のおかげで小鳥との満ち満ちた日々をようやく確認したクマは、
小鳥のいない生活への新しい一歩を踏み出します。

湯本香樹実 文、酒井駒子 絵
河出書房
講談社出版文化賞絵本賞受賞



別れと向き合うという重いテーマについて、一つの答えを見せてくれる絵本です。繊細で美しい挿絵とともに、生と死や心が描かれています。ベージュ色の紙面に白黒の挿絵で、最後の方で濃い桃色が少しだけ色塗られています。この静かな絵から、親しい大切な小鳥を亡くしたクマの気持ちがまっすぐに伝わってきます。

2025/05/04

「ことり」赤ちゃんから楽しめる絵本

小鳥が1羽やって来て、
また1、2羽やって来て、
少しずつ増えて10羽になります。
おや?10羽集まった形が素敵な姿に!
そこに猫がやって来て・・・。

中川ひろたか 文、平田利之 絵
金の星社
絶版になりました


レトロな雰囲気のグラフィックで、鮮やかな黄色の背景に、小鳥の青、猫の黒のコントラストが映えます。絵本を読み進めると、終わりの方で鳥たちが羽ばたいて行き、パッと真っ白な背景に変わります。18cm四方の絵本を開くと繰り広げられるこの色彩は、0歳の赤ちゃんにも刺激的で興味深く映ることと思います。
少しずつ集まってくる10羽の小鳥たちを楽しく数えたり、鳥たちが寄り添いあい、どんどんと素敵な形を形作っていくのも楽しめます。単純な青いシルエットに、黒い点(目玉)と線(口ばし)を描くだけで鳥に見えてしまう面白みも発見できます。猫がやって来た時の鳥たちの反応も楽しいです。
小さくてシンプルな絵本ですが、楽しみどころが満載です。かわいくて、感性に働きかける魅力的な絵本だと思います。赤ちゃんへのプレゼントにもおすすめです。

2025/05/02

「きょうはなんのひ?」

まみこはお母さんに、階段に置いてある手紙を見るようにと伝え、 
学校へ行ってしまいました。 
その手紙には次の手紙のありかが書いてあり、
次の手紙には、さらに次の手紙のありかが書いてあり・・・。
お母さんは家中を探し回り、手紙を集めました。
それは、まみこから両親への素敵な贈り物でした。
そしてまみこにも、素敵な贈り物が待っているのです。

瀬田貞二 作、林明子 絵
福音館書店


絵本のストーリーは表紙からすでに始まっており、裏表紙まで続きます。
私は子どもの頃、この絵本の綿密なストーリーに心を奪われ、優しい絵を隅々まで眺め、繰り返し読みました。そして何度も「まみこ」の手紙のような遊びをして楽しみました。この絵本のように何かを祝うため・・・ではなく、子供同士で宝探しのように遊びました。空想の世界を楽しませてくれるファンタジックな絵本とは異なり、『きょうはなんのひ?』からは具体的な遊びに発展し、ともに遊びを共有した人がいることが嬉しいですね。工夫して手紙を隠したりプレゼントを考えたり、探す立場になるのも楽しかったものです。しかし、「まみこ」のように知恵を凝らした上出来な手紙とプレゼントには到底かないませんでした。「まみこ」には本当に感心します。また、優しい人柄が伝わってくる「お母さん」にはいつまでも憧れます。
造形や絵画など、創作を子供に教える先生は、子どもが真似できないレベルの手本を作ってみせるのだそうです。『きょうはなんのひ?』は、いつまでも手本であり続ける絵本だと思います。

下の挿絵の中で「お母さん」が開いている絵本は、『きょうはなんのひ?』の作者、瀬田貞二さんが訳された『マドレーヌといぬ』です。犬がマドレーヌを助けようとする場面のページを開いています。