母さん狐は子狐の冷たく濡れた手を温めながら、
夜になったら子狐のために手袋を買ってやろうと思いました。
町へ向かうとお母さんは、
かつて町へ行った時に人間に追われて逃げたことを思い出し、
足がすくみました。
仕方なく子狐だけを町へ行かせることにしました。
「手ぶくろを買いに」日本の童話名作選
新美南吉 作、黒井健 絵
偕成社
優しい文章で読みやすく、穏やかな気持ちになります。雪景色や町の明かりを初めて見た子狐のかわいらしい言葉にはドキリとします。また、人間を恐れて警戒する母さん狐の気持ちと、人間の優しさを感じとった子狐の気持ちのどちらにも人間の姿が反映され、「ほんとうに人間はいいものかしら。」と繰り返してつぶやく母さん狐の言葉は余韻を残します。
黒井健さんのふんわりした絵がとても素敵です。柔らかな雪景色や狐の毛並み、夜の街にぽっと照る明かりを描く絵が、優しい文章や狐の親子の愛情に重なります。とろけるような優しい絵本です。
旧仮名を改め一部改行した他は、原文のままの記載だそうです。
前回の「ごんぎつね」と「手ぶくろを買いに」は同じく黒井健さんが手がけた新美南吉童話で(日本の童話名作選、偕成社)、大きさも同じおそろいの本です。