2025/03/30

「手ぶくろを買いに」日本の童話名作選

初めての雪景色の中を駆け回った子狐。
母さん狐は子狐の冷たく濡れた手を温めながら、
夜になったら子狐のために手袋を買ってやろうと思いました。
町へ向かうとお母さんは、
かつて町へ行った時に人間に追われて逃げたことを思い出し、
足がすくみました。
仕方なく子狐だけを町へ行かせることにしました。
  
「手ぶくろを買いに」日本の童話名作選
新美南吉 作、黒井健 絵
偕成社
優しい文章で読みやすく、穏やかな気持ちになります。雪景色や町の明かりを初めて見た子狐のかわいらしい言葉にはドキリとします。また、人間を恐れて警戒する母さん狐の気持ちと、人間の優しさを感じとった子狐の気持ちのどちらにも人間の姿が反映され、「ほんとうに人間はいいものかしら。」と繰り返してつぶやく母さん狐の言葉は余韻を残します。
黒井健さんのふんわりした絵がとても素敵です。柔らかな雪景色や狐の毛並み、夜の街にぽっと照る明かりを描く絵が、優しい文章や狐の親子の愛情に重なります。とろけるような優しい絵本です。
旧仮名を改め一部改行した他は、原文のままの記載だそうです。

前回の「ごんぎつね」と「手ぶくろを買いに」は同じく黒井健さんが手がけた新美南吉童話で(日本の童話名作選、偕成社)、大きさも同じおそろいの本です。

2025/03/28

「ごんぎつね」日本の童話名作選

いたずらばかりしていた「ごん狐」は、
ある時、兵十にした いたずらを悔やみました。
「ごん狐」はそれから毎日、
良かれと思って兵十に届け物をするのでしたが・・・。
   
「ごんぎつね」日本の童話名作選
新美南吉 作、黒井健 絵
偕成社

独りぼっちの「ごん狐」が、独りぼっちになった兵十に共感を抱いてからは、「ごん狐」は兵十のために毎日山の恵みを届けます。ところが、「ごん狐」と兵十の気持ちはすれ違い、「ごん狐」の死という悲劇が起こってしまうのでした。
思いがけない突然の悲劇が起こるなり、ぱったりと幕を閉じる物語です。「ごん狐」の胸の内は物語の中でよくよく述べられており、兵十への思いをうかがい知る事ができます。しかし、その最後には何を思ったのでしょうか。幕を閉じた後の兵十の気持ちはいかがなものだったのでしょうか。ぱったりと幕を閉じてからは、読む人それぞれの思いが錯綜する、後を引く物語です。「ごんぎつね」は小学4年生の教科書に掲載されています。
こちらの絵本は黒井健さんの色鉛筆で描かれた柔らかい絵で、石垣のある村の美しい風景が渋い色合いで描かれています。いたずらだけれどもかわいらしい「ごん狐」には、切ない思いが募ります。
旧かなづかいを新かなづかいに改めた他は、原文のままだそうです。

次は同じく黒井健さんが手がけた新美南吉童話「手ぶくろを買いに」について書きます。
同じく偕成社から日本の童話名作選として出版されています。大きさも同じ、おそろいの本です。

なお、火縄銃については名古屋刀剣ワールドのウェブサイト「火縄銃とは」に詳しい説明があります。刀剣ワールドには刀剣のみならず、甲冑や火縄銃も所蔵されており、その品々の量には圧倒されます。日本を動かし築き上げてきた歴史とともにあった品々に惚れ惚れし、改めて誇りに思うありがたい場所です。

2025/03/26

「ザスーラ」

「ジュマンジ」のゲーム盤にはもうひとつのゲーム盤「ザスーラ」が入っていた。
ダニーとウォルター兄弟は何気なく「ザスーラ」を始めてしまう。
ゲームの舞台は宇宙だ。
 
クリス・バン・オールズバーグ、金原瑞人 訳
ほるぷ出版
絶版になりました 


絵本「ジュマンジ」の続編です。宇宙を舞台にした危険なゲームの展開にドキドキしながらも、無邪気なダニーと、ゲームを通してひとつ大人になるウォルターとの兄弟愛がほほえましく、嬉しくなる話です。細やかなモノトーンの美しい絵は「ジュマンジ」とは違った手法の描き方で、雰囲気も一転しています。
すべての漢字にはふりがなが振ってあります。

「ザスーラ」は「ジュマンジ」から20年を経て出版されたそうです。日本語版はどちらも ほるぷ出版から出版されていましたが両方とも絶版になっています。「ジュマンジ」は あすなろ書房より村上春樹訳となってとなって復刻されています。 

なお、映画版「ザスーラ」には姉や宇宙飛行士も登場し、映画版「ジュマンジ」と同様に時空を越えた面白味が加わっています。

2025/03/24

「ジュマンジ」

ピーターとジュディは拾ったゲーム盤を家に持ち帰る。
危険なジャングルを通り抜けるすごろくゲームだ。 
いったん始めたら誰かが上がるまで絶対にゲームは終わらないのだという。

クリス・バン・オールズバーグ 作・画、村上春樹 訳
あすなろ書房
コルデコット賞受賞
モノトーンの迫力ある美しい絵を眺めながら、スリリングなゲームに引き込まれます。絵も物語りも緊張感や驚きに満ち、子供も大人も満足するに違いありません。
映画「ジュマンジ」の原作本です。映画の中で故ロビン・ウィリアムズが演じる主人公は、絵本の中ではどんな風に登場するのでしょう? 見比べてみるのも面白いです。
以前は ほるぷ出版から出版されていましたが絶版となり、その後あすなろ書房より村上春樹訳となって復刻されています。
すべての漢字にはふりがながふってあります。

次は「ジュマンジ」の続編、「ザスーラ」について書きます。

2025/03/22

「ラチとらいおん」

世界で一番よわむしな男の子、ラチのもとにやって来た小さな赤いライオン。
小さくても力持ちで勇敢なライオンは、ラチに勇気と自信をもたらす。 
ライオンがそばにいれば、ラチには怖いものは何もない。 
たくましくなったラチは、やがてあることに気付く。 

 
マレーク・ベロニカ 文・絵 徳永 康元 訳
福音館書店

ラチがライオンに出会い、勇気と自信を身に付けていく様子がよく伝わってきます。そして、最後のシーンで涙を流すラチのように、そこで読み手も胸が熱くなることでしょう。小さな絵本の中に込められたメッセージの力に驚かされます。
友達関係を築き始めたり、集団に属するようになる3、4歳くらいになると理解できるかと思います。入園を控え、期待と不安でいっぱいのお子さんへのプレゼントにもぴったりの絵本です。
文章はわかりやすく読みやすいです。
すべてひらがなとカタカナで書かれています。
小学1、2年生の音読学習にもいいと思います。

2025/03/20

「アリババと40人の盗賊」

アリババは、盗賊が宝を隠している洞窟と、 洞窟を開閉する呪文を偶然に知り、洞窟にこっそり入って金貨を持ち帰る。 
アリババの兄カシムもこれを知って洞窟へ行くが盗賊に見つかって殺され、バラバラにされて洞窟の中に見せしめに置かれた。
アリババはバラバラにされたカシムを密かに持ち帰り、家政婦のモルジアーナの知恵により、カシムの体は傷ひとつなく縫い合わされ、人に死に方を怪しまれることなく埋葬された。
 一方、カシムの遺体がなくなったことに気づいた盗賊は、 洞窟の秘密を知る者を探してアリババの家を突き止め、 アリババの命を狙いにやって来る。 

マーガレット・アーリー 文・絵、清水達也 訳
評論社

恐ろしく無情な盗賊に、アリババの家政婦モルジアーナは知恵で挑みます。アリババの命を狙う盗賊のたくらみにモルジアーナは一つ一つ感付いては、冷静に着実に反撃していくのです。盗賊は実に残酷なことをするのですが、モルジアーナも・・・つわものなのです。 
洞窟を開く呪文は「ひらけ、ゴマ!」です。よく知られたこの言葉を、物語とともに知って欲しいと思います。この絵本では恐ろしいことも包み隠さず描き、困難に立ち向かっていくスリリングな展開を味わえます。千夜一夜物語の代表作の一つとして語り継がれる訳がよくわかります。残忍な場面は淡々と短く書かれているので、子供でもおびえすぎず、物語として客観視できるかと思いますが、読み聞かせていいか見極めが必要かとも思います。また、 舞台となるペルシアをイメージするのに、この本の絵は助けになります。ふんだんに描かれたアラベスク模様などの雰囲気、なめらかな民族衣装の登場人物、重厚な建物など、繊細に描き込まれた挿絵により、異文化をイメージしながら話を楽しめることと思います。 読み聞かせには時間がかかりますが、いかがでしょうか。 
難しい漢字には振り仮名付きです。
読み聞かせは小学生から、自分で読むならば3、4年生くらいから。

2025/03/18

「アラジンと魔法のランプ」

アラジンは魔法使いに騙され、一緒に魔法のランプを取りに地下へ行った。
しかし、機嫌を損ねた魔法使いは、
アラジンを地下に閉じ込めて魔法のランプを取らぬまま帰ってしまう。
アラジンは魔法使いから手渡されていた指輪の魔力により地下から脱出。
取ってきた魔法のランプのおかげで富を手に入れ、
お姫様も迎え、宮殿を建てて幸せに暮らした。
ところがあの魔法使いのたくらみにより、
魔法のランプもお姫様も宮殿も奪われてしまい・・・。

アンドルー・ラング 再話、エロール・ル・カイン 絵
中川千尋 訳
ほるぷ出版

千夜一夜物語(千一夜物語、アラビアンナイト)の代表作の一つ「アラジンと魔法のランプ」。魔法のランプがもたらす不思議な世界を、エロール・ル・カインがエキゾチックに描きます。こすれば出てくるランプの魔神・指輪の魔神が願いを叶えてくれるという単純明快な面白さ。これを、ル・カインの細やかで神秘的な描写により、想像力を掻き立てられながら堪能できます。アラジンは魔神に畏敬の念を抱き、代々大切に守り抜かせたのだろうと感じさせられる絵の力があります。大人もじっくりと楽しめる美しい絵本です。

2025/03/16

「蜘蛛の糸」極楽と地獄を描く挿絵も圧巻

 
「蜘蛛の糸」 日本の童話名作選
芥川龍之介 作、遠山繁年 絵
偕成社

悪事を繰り返して地獄に落ちた かん陀多は、 かつて、蜘蛛を踏みつけようとしたものの、可哀想だからと踏まずに見逃したことがありました。
これを思い出したお釈迦様は、 地獄のかん陀多を救うために蜘蛛の糸を差し伸べます。
お釈迦様は、 かん陀多にも良心や抑制心があることに希望を託したのでしょうか。
かん陀多にとっても、たった一つの希望の糸口でありましょう。
しかし、地獄から這い出るために蜘蛛の糸をよじ登るかん陀多は、 我も我もと後に続いて登って来る他の罪人達を邪魔に思い、自分が登りきるためには他人はどうでもよくなってしまいました。
その抑えきれない気持ちは、まさに、 かん陀多が犯してきた数々の悪事の元凶に違いありません。 
そして蜘蛛の糸は切れ、かん陀多達は皆地獄の底に落ちてしまいます。

以上、あらすじに自分の解釈を交えて述べてみました。文豪の明快で簡潔な名作に、私がこれ以上解釈を述べるのはふさわしくありませんので、あとはこの絵本の感想を。感銘した点は、極楽と地獄の対照的な雰囲気の明確な挿絵の表現です。罪人達がもがきひしめく暗い地獄。必死に一筋の蜘蛛の糸にしがみついた後に希望が絶たれる罪人達。その一部始終を見守るお釈迦様がおられる清らかでまぶしい極楽、何事もなかったように優雅に散歩を続けるお釈迦様の柔和なお姿。しかも、地獄の絵からは唸るような叫びやざわめきが、極楽の絵からはお釈迦様の衣のかすれる澄んだ音が聞こえてくるようです。絵本だからこそ、言葉の感覚と絵の効果が相まって、名作を難しく考えずに楽しめます。この絵がなかったら、大人は蜘蛛の糸を読んで、人の心の奥底云々ばかりをのたまうかもしれません。芥川龍之介は「蜘蛛の糸」を子どもが読むように創作したそうです。
原文のまま書かれています。すべての漢字にはひらがなが振ってあります。
中学の教科書にも掲載されています。

2025/03/14

「マドレーヌといぬ」

パリの古い寄宿舎で12人の女の子たちが暮らしています。 
日課になっている毎朝の散歩の途中、 
一番おちびさんのマドレーヌは川に落ち、 1匹の犬に助けられます。 
犬はみんなと一緒に仲良く住むことになりますが、
半年後、犬は無理やり追い出されてしまうのです。
女の子達は、犬を街中探し回ります。

 
「マドレーヌといぬ」 世界傑作絵本シリーズ
 ルードヴィヒ・ベーメルマンス 作・画、瀬田貞二 訳
福音館書店
   


子どもの頃の私は、寄宿舎で暮らすという設定がわからず読んでいました。しかし、おりこうさんに見える12人の女の子たちも、先生の目が届かなくなると大騒ぎをするところには親しみがわき、みんなで犬をかわいがり、一生懸命探し回る気持ちには共感していました。異国の景色とともに描かれたこの絵本に、自分たちと同じような子ども心があふれている。そういう何か不思議な嬉しさがありました。
大人になってこの絵本を見ると、描き込まれたパリの名所の数々にも魅了されます。後ろのページに説明があります。白と黄色と、軽やかな黒い線で描かれた絵に混じり、時々色彩豊かな絵も表れ、とても洒落ています。世代を超えて味わえる絵本です。そして、みんなで探し回った犬も、素敵な楽しい恵みをもたらしてくれるんですよ!
文章はひらがなとカタカナだけで書かれています。
小学1、2年生の音読にもいいと思います。

2025/03/12

「王子さまの耳はロバの耳」 おはなしのたからばこ13

ある国の王様の元に待望の王子様が生まれました。
 王子様は人に優しくて賢く、人の話をよく聞くように育ちました。
しかし、王子様はいつも帽子をすっぽりとかぶっているのでした。 

 
「王子さまの耳はロバの耳」 おはなしのたからばこ13
 岡田淳 作、はたこうしろう 絵
フェリシモ 2009年11月
絶版になりました

ポルトガル民話が元になっている物語です。とてもいい絵本ですよ!
王子さまの大きなロバの耳を見た者はみな仰天し、聡明な王子さまの本質に触れることなく去っていきます。しかし、王子さまが自分を真に見つめ直した時、同様に王子さまを真に見つめてくれる人に巡り合います。
岡田淳さんが民話を再構築するとこうなるのかと、何だかときめきました。ドキドキする滑らかな文章を追いながら王子さまの心の成長を見守り、ラストで爽快な満足感が得られる点は、岡田淳さんの他の作品の印象と似たものがあると思いました。はたこうしろうさんの甘めのトーンのイラストは清らかな雰囲気やユーモアが入り混じり、多様な人間模様が楽しめます。

2025/03/10

「ごろごろ にゃーん」

 

「ごろごろ にゃーん」

海の上に浮かぶ飛行機の中に、
ボートをこいでやってきた猫たちが乗り込みます。
「ごろごろにゃーん、ごろごろにゃーん と、ひこうきはとんでいきます 」

「ごろごろ にゃーん」こどものとも傑作集
長新太 作・画、福音館書店

 「ごろごろにゃーん・・・」の言葉が繰り返されて面白く、楽しいならそれでいいんだと思える絵本です。ページをめくってもめくっても同じ言葉が繰り返されますが、情景は変わっていきます。絵は、黒と緑がかった青に黄土色の差し色を用い、ペン先の線だけで描かれています。青白い世界が次々に現れる「ごろごろにゃーん」の旅は、最後に「ただいまー。」と無事に終わるので、何度読み終えても安心した満足感があります。毎日が同じような事の繰り返しのように思えても、ささやかでも何かしらのドラマや冒険、驚きや喜びなどがいつもあること、そして無事に一日を終えることが大事ということ、「ごろごろにゃーん」の猫たちはそれらを知ってます。
 幼少期に手元で見ていた寒色系の線で描き込まれた絵。これを手元から離して眺めるととても美しいことに、大人になって気が付きました。声に出して読んで楽しい、眺めて楽しい、とっておきの不思議な魅力のロングセラー絵本です。

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2025/03/08

「もりのなか」

「ぼく」は紙の帽子をかぶり、ラッパを持って、 森へ散歩に出かけました。 
森の中で出会った動物達を次々に引き連れて散歩をし、一緒に遊びます。

   
 マリー・ホール・エッツ 作・絵、間崎ルリ子 訳
福音館書店
   

森の中でファンタジックな遊びにふける「ぼく」を探しに来たお父さんは、「ぼく」が楽しんでいた出来事を壊すことなく受け入れてくれます。素敵なお父さんに嬉しくなります。 「・・・ぼくのさんぽについてきました」という言葉の繰り返されるリズミカルな文章、白黒の優しい絵、ファンタジックな世界から現実世界への自然な切り替え、そして素敵なお父さん。どこもかしこも楽しい絵本です。

2025/03/06

「キューピー物語」キューピーちゃんとは?

キューピーたちは春の準備を始めます。 小鳥に歌を教え、花にきれいな色を塗り、冬眠中の小熊を起こします。 キューピーたちは、春になっても暗く陰気な、 人々の怖がる家の前を通ります。 その家には幽霊が住み着いていたのです。 キューピーたちは、もう幽霊をやめたいと言う幽霊を消すのを手伝い、 誰もが住みたくなる家に変えていきます。

  
ローズ・オニール 作、北川美佐子 訳
如月出版
絶版になりました

キューピーちゃんとは?元祖キューピーちゃんをご覧になれる絵本です。
ぷっくりしたキューピーたちのかわいい姿と愛嬌たっぷりの表情に癒されます。幽霊をやめたくてもやめられない、という幽霊の悩ましい気持ちを分かち合うキューピー。何とか幽霊を消してあげようと力を合わせたり、願いを込めて、暗い家を明るく変えていくキューピー。読む人の心に、優しさや愛情、豊かさといった温かなものを注ぎ入れてくれます。
キューピーのイラストとその物語を創作したのはアメリカのローズ・オニールで、1909年に女性誌に発表したのが始まりだそうです。日本では2002年以降に『キューピー物語』が4冊出版されました。(絶版になっているようです。)私は中でも『キューピーとおばけやしきの巻』が気に入っています。キューピーが特にかわいい姿で登場し、話も面白いと思います。
文章は子どもにも易しいものなのですが、漢字には振りがなほとんど振ってありません。使用されている漢字は、1、2年生で習う花、見、色、春、門などの他、3、4年生で習う美、世、愛などです。

ローズ・オニールやキューピーについては、日本キューピークラブ公式ホームページをどうぞ。http://www.kewpie-jp.com/ 

2025/03/04

「だんごむしそらをとぶ」

毎日地面の枯葉ばかりを食べているだんごむし。 
空を眺め、ぼくも空を飛びたいな、羽があれば飛べるのにな、と思います。 
だんごむしはトンボの羽を手に入れ、設計図を描き工具を使い、
そらとぶマシンを作り上げ飛び立ちます。

   
松岡達英 作
小学館

虫がとにかく嫌いで怖い人は多いですが、大人が虫嫌いだとしたら、それを子どもに伝播させる前にきれいな絵の絵本を子どもに選んでみてはいかがでしょうか。
絵本図鑑などで目にする松岡達英さんが描く絵本です。松岡さんが描く自然の世界は細やかで美しく、表情も色合いも優しくて、私は大好きです。「だんごむしそらをとぶ」からは、松岡さんの虫たちへの愛情や、魅力的な生態への敬意が伝わってきます。身近で小さなだんごむしが大きくかわいらしく描かれ、夢を叶えて冒険する物語です。子どもが好奇心旺盛な時にこそ何度も読んであげたい本です。小さな命を大切にする心が育まれそうです。

2025/03/02

「ねっこぼっこ」 100年以上前の絵本

「さあ起きなさい、子どもたち。もうすぐ春がやって来る。」
大地の母さんとともに、木の根っこの下に住んでいるねっこぼっこたち。
自然の恵みを愛でるねっこぼっこたちの、
微笑ましく素敵な物語です。 
ジビュレ・フォン・オルファース 作、秦理絵子 訳
平凡社
絶版になりました 

作者のジビレ・フォン・オルファース (Sibylle von Olfers) の最も有名な作品の日本語版です。原作は1906年にドイツで出版された Etwas von den Wurzelkindern で、英語では The Root Children というタイトル。世界中で人気を誇る美しい絵本です。
木の根っこの下に住んでいるねっこぼっこたちは、推測するに一寸法師や親指姫くらいの小さな子どもたちです。春になると起き出し、せっせと手仕事をしたり、大地の自然に生きる草花や虫たちと遊んだり。ねっこぼっこたちの愛らしい姿と、豊かな自然と一体となった歓喜の描写に、心癒されうっとりとさせられます。言葉は少ないですが、絵が十分に語っていると思います。短い詩的な日本語文はリズミカルで、母音が韻を踏む工夫がたくさん盛り込まれています。
漢字はすべてふりがな付きです。

また、「根っこのこどもたち目をさます」という絵本もあり、絵はほとんど同じですがもっと長い文章が添えられています。絵の情景を言葉で説明したような文章になっています。 
 
ジビュレ・フォン・オルファース 絵、ヘレン・ディーン・フィッシュ 文
石井桃子 訳
童話館出版