2025/04/26

「空とぶじゅうたん」

はるか昔のインドの話。 
 ある王の息子である3人の王子、フセイン、アリ、アーマッドは、
3人ともノア・アルニハ王女と結婚を望んでいた。
3人は王に命じられ、世にも珍しい宝を探しに旅立った。
最も珍しい宝を持ち帰った者が王女と結婚することができるのだ。
やがて3人がそれぞれに宝を入手し再会した時には、王女は死の淵にあった。
王女を救うにはどの宝も不可欠で優劣つかず、王女との結婚相手は決まらない。
次に王は、3人の王子の中で弓矢を最も遠くに放った者が王女と結婚できることにした。
はたして誰が王女と結婚できるのか!?

 
「空とぶじゅうたん」アラビアン・ナイトの物語より
マーシャ・ブラウン 再話・絵、松岡享子 訳
アリス館 2008年12月初版発行
絶版になりました

マーシャ・ブラウンのエキゾチックで色彩豊かな、にぎやかな雰囲気の絵本です。リチャード・バートンが翻訳した千夜一夜物語をもとに、1955年に制作されたそうです。マーシャ・ブラウンがまとめ上げたこの絵本のラストは、3人の王子の中からノア・アルニハ王女との結婚相手が決まり、他の2人もそれぞれ新たな暮らしをみつけて穏やかに幕を下ろすハッピーエンド。しかし、元々の空飛ぶ絨毯の話は、王女との結婚相手が決まってから一騒動あり人間関係がもつれます。この絵本ではそれを、「・・・それは、またべつの物語です。」と脇に置いて締めくくっています。丸くおさめつつ、「べつの物語」を匂わせる工夫がみごとです。原作に忠実にまとめ上げていると言えます。
ところで、3人の王子は王の息子ですが、ノア・アルニハ王女は王の姪なのです。王子たちとノア・アルニハ王女は、いとこ同士ということです。

2025/04/24

「チョコレート工場の秘密」

 
「チョコレート工場の秘密」ロアルド・ダール コレクション 2
ロアルド・ダール 作、クエンティン・ブレイク 絵、柳瀬尚紀 訳
評論社 2005

1964年に発表された Charlie and the Chocolate Factory の日本語新訳版です。面白いストーリーですね。映画「チャーリーとチョコレート工場」の原作です。映画はだいぶ原作に忠実で、世界観を見事に表現し、さらにはチャーリーへのリスペクトが感じられます。原作も映画も傑作だと思います。
読みやすく声に出して読むのも楽しいので、少しずつ読み聞かせするのもおすすめです。もちろん、小学生から自分で読むのにぴったりです。
クエンティン・ブレイクが1978年にロアルド・ダール作品「どでかいワニの話」 のイラストを手掛けて以来、ロアルド・ダール作品とクエンティン・ブレイクのイラストの組み合わせは定番になっています。この組み合わせも好きです!

作品中の工場の主 Willy Wonka はアメリカでは有名なのでもはや代名詞や比喩として用いられており、インスタや動画でもレトリックとして見聞きします。作品を知っておくと用法が想像できると思います。例えば、Willy Wonka は奇抜な人の代名詞だったり、Willy Wonka moments と言えば夢のようなひと時をあらわしています。注意点もありますので詳しくは AI に聞いてみるといいと思います。

映画「チャーリーとチョコレート工場」2005
Prime Video 吹替版
 
 

2025/04/22

「白鳥」アンデルセン童話

ある国の11人の王子達と妹のエリザは姿も心も美しく、 何の不足もなく豊かに暮らしていました。 ところが継母が来てからはひどい扱いをされました。 そしてエリザは田舎の百姓家へ預けられ、 11人のお兄さん達は魔法で白鳥に姿を変えられたのです。 年月が経ち、お兄さん達にかけられた魔法を解く方法を知ったエリザは、 魔法を解くために我が身をすり減らして苦しみに耐え続けます。 

アンデルセン 作、マーシャ・ブラウン 絵、松岡享子 訳
福音館書店
絶版になりました


入手しにくいのが残念です。
エルザと王子たちは信じ合う心で固く結ばれ、いつでも気高い心の輝き持っています。純真で善良なエリザと11人のお兄さん達。彼らの感謝の心や大切な人を思いやる心の描写が、物語の所々で美しい言葉で表現され、その度にドキリとさせられます。また、エリザは魔女ではないかと疑われ、誤解され、エリザには死刑の時が迫ります。皆にさげすまれながらも、エリザは信念を貫き通し、残された時間をお兄さん達のためにできることだけに使うのです。その最後のシーンにはハラハラさせられます。
物語と同じく文章もとても美しく、読みやすいです。何回かに分けて読み聞かせするにも区切りやすいページ設定です。
難しい漢字には初回だけふりがな付きです。
小学生に読み聞かせたり、小学生が自分で読むのにぴったりだと思います。

2025/04/20

「まってる。」大人が欲しい絵本

ある男の子が家族のに幸せに包まれて成長する。
大人になり大切な人と出会って結ばれ、
新しい家族を作る。
年老いて、大切な人を失う悲しみと、
新たな家族を迎える喜びを得る。
一人の人生を、20数個の「まってる。」という言葉を添え、心のアルバムをめくるように描かれています。

     
デヴィッド・カリ、セルジュ・ブロック、小山薫堂 訳
千倉書房


小山薫堂さんが訳した、横に細長い洒落た絵本です。中身のページはラフな黒い線のイラストに赤い毛糸の写真を用いているのが印象的です。
待つことの先には、毎度繰り返すできごともあれば未知のできごともあり、心が膨らむ楽しみや期待もあれば、心が押しつぶされそうな不安や悲しみへの覚悟もあるのですね。日常当たり前のあらゆる待ち時間の中に、こんなにも人の人生が反映されているとは。この絵本を読んで、このような考えに初めて思いをめぐらせました。読めば読むほど味わい深くなり新しい考察が舞い降りてくる、イラストや行間に読み手の心理や人生が映し出される絵本だと思います。月日が経つ速さに驚く毎日の中で、「待つ」ことの意味や重さを考えさせられます。大人向けの絵本かなと思います。

2025/04/18

「かちかちやま」日本傑作絵本シリーズ

じいさまは畑でタヌキを捕まえてきた。 
ばあさまにタヌキ汁を作るようにと言い、じいさまは出掛けた。 
ところがばあさまは、タヌキに打ち殺されてしまうのだった。 
じいさまが悔しくて泣いているところにやって来たウサギは、 
かたきをとってやることにした。 

「かちかちやま」 日本傑作絵本シリーズ
小澤俊夫 再話、赤羽末吉 画
福音館書店


タヌキに殺されたばあさまは、タヌキ汁ならぬ「ばあ汁」にされてしまいます。タヌキはばあさまに化け、帰って来たじいさまは、ばあ汁をそれとは知らずに食べ尽くしてしまいます。この残酷な話を隠さずに語っている。これぞ「かちかちやま」。ばあさまのかたきをとってやる事にしたウサギは、タヌキを何度もだましてはひどい目にあわせた上にやっつけてしまいます。ウサギのじわじわとして執拗な復讐劇は、哀れなばあさまの話を抜いては成り立ちません。 貴重な「ばあ汁」の話が盛り込まれているだけではありません。この「かちかちやま」ほど、文章も絵もわかりやすいものはないと思います。文章は一文字も削れないほど無駄がなくすっきりしていて読みやすく、絵は、赤羽氏の作品はどれもそうなのですが、見やすくてストレートに話の内容と面白さが伝わってくるのです。

2025/04/16

「オセアノ号、海へ! 」飛び出す仕掛け絵本

オセアノ号が出航し、大海原に感嘆し畏敬の念を抱きつつ旅する物語。

アヌック ボワロベール  著、ルイ リゴー 著、松田 素子 訳
アノニマ・スタジオ

縦長の紙面を活かした仕掛け絵本です。仕掛けとイラストの相乗効果にうっとりします。立体感に驚かせられながらも、品があって賑やかすぎず、静と動も感じられる仕上がりに魅了されました。潜らなければ見えない世界への関心や想像力が湧き上がります。作中に氷山も登場するのですが、「氷山の一角」という言葉を子供が知り、理解するのにも役立ちそうです。実際の氷山を知らなくても、この絵本を通じてその意味を感じ取れるかもしれません。

2025/04/14

「おおきな木」シェル・シルヴァスタイン

少年の成長を見守るりんごの木の物語。

 
シェル・シルヴァスタイン (著)、村上 春樹 (訳)
 あすなろ書房

「おおきな木」には何かメッセージが秘められているように思えます。しかし、一度読んだだけでは気づきにくく、長年寝かせておいて再読するとその感動を味わえる作品かもしれません。たとえ寝かせておいて忘れてしまっても心配はいりません。ロングセラーの名作ゆえまた出会う時が来ると思うのです。再会する度に気が向いたら読んでみると、前回読んだ時とは別の感動に驚くかもしれません。
おおきな木と少年にどこまで共感できるか。彼らに、自分の知る誰かの姿が重なるか。こうした気持ちは読む時期や人生の状況によって変化していきます。幼少期に読んだ時、親になって読んだ時、子供が巣立った後に読んだ時 ―― 時を経て読んでは新たな余韻が生まれ、読後感が変化していく類まれな作品だと思います。 この本の簡潔な文章と絵の中には、人間の人生の断片が詰まっています。それゆえ、所々で読み手の経験と交差するのでしょう。「おおきな木」のように、ささやかでも確かな何かを築きたいと思う大人にとって、本棚に残しておきたくなる一冊ではないでしょうか。

 
原書: The Giving Tree  Shel Silverstein, HarperCollins

2025/04/12

「おひさん、あめさん」金子みすゞの15編の詩

「おひさん、あめさん」
 金子みすゞ 作、矢崎節夫 選、森川百合香 絵
JULA出版局

金子みすゞの詩集を編纂し世に送り出してきたJULA出版局が抜粋した15編の詩が掲載されています。優しい絵とともに楽しめます。短い生涯だった金子みすゞの作品を読むと、素朴で純粋でありながら、ハッとする気付きをもたらす深みがあります。ふんわりしているのに、きりりとした印象も持ち合わせています。中でも私が一番深く感動し大好きな詩は「ほしとたんぽぽ」です。 ―― みえぬけれども あるんだよ、 みえぬものでも あるんだよ。 ―― この言葉を綴った金子みすゞの深いまなざしと表現には、何度読んでも感銘を受けます。 絵本「おひさん、あめさん」の最後を締めくくる詩でもあります。
ほとんどひらがなで書かれています。

だいぶ前の話ですが、私は雑誌で金子みすゞの特集を読んで感銘を受け、「金子みすゞ全集」(JULA出版局)という全3巻の詩集を入手しました。白い表紙の3冊が青い箱のケースに収まっていて美しい装丁でした。どういう訳か人に譲ってしまい…。その後、金子みすゞはNHKの教育番組で「大漁」が詠まれてから一気に人気が上がり、よく知られる詩人になったと記憶しています。
嬉しいことに、全集は新たに手に入りやすくなりました。
2022年に512編もの詩を1冊に収めた「金子みすゞ童謡全集」(フレーベル館)が出版されています。2023年の金子みすゞ生誕120年を前にして出版されたそうです。

 
金子みすゞ (著)、矢崎節夫 (監修)
フレーベル館

2025/04/10

「進化の迷路」原始の海から人類誕生まで

香川元太郎 作・絵
PHP

進化の歴史がよくわかる絵本です。イラストの中に迷路や隠し絵が仕掛けてあり、子どもたちは夢中になって自ら読み進めることでしょう。仕掛けは、子ども大人を問わず適度な難易度です。恐竜大好きなお子さんのお気に入りになりそうです。

カンブリア紀とオルドビス紀、シルル紀・デボン紀、石炭紀・ペルム紀、三畳紀、ジュラ紀(陸上)、白亜紀(陸上)、ジュラ紀・白亜紀(海)、第三紀:鳥と哺乳類の出現、第四紀:氷河期、という流れでページが進み、変遷をたどっていきます。
時代ごとに見開きで構成されており、各時代を代表する生物がたっぷり描かれ、簡潔でわかりやすい時代解説も添えられています。シンプルに整理されており、進化の歴史を視覚的にとらえる資料としても力作だと思います。

すべての漢字には振り仮名付きです。

 

2025/04/08

「ダーウィン 日記と手紙にかくされた偉大な科学者の努力と夢」

昆虫や動植物、地質学などにばかり夢中だったチャールズ・ダーウィンは、
探検や調査のすえ、生物の「進化」を発見し確信する。
しかしそれは、神がすべての生物を今の姿のままつくったと説く聖書の教えに背く恐れとの葛藤でもあった。
常識を覆すこの発見にひたむきに挑むダーウィンの苦悩と情熱を、
神への畏れと壮大な自然への敬意とともに語る。
「進化論」を確立するまでの物語。

アリス・B・マクギンティ 作、メアリー・アゼアリアン 絵
千葉茂樹 訳、BL出版


「種の起源」を著し「進化論」を唱えたダーウィンの伝記です。昆虫採集、ビーチコーミングなどの収集活動、水族館や動物園の探検・・・。生きものたちを見たい、知りたい、集めたいと思って行動する子供達におすすめです。何かに夢中になり掘り下げることは素晴らしいと、子どもたちを応援してくれることでしょう。表紙はダーウィンの大切で年季の入ったノートを思わせます。中身は40ページを超えて文章がたっぷりあり、ダーウィンの気持ちを察しながら、信念を貫く熱い思いが偉業を成したと気付かされます。自然な色彩でふんだんに彩られた細やかな版画も見ごたえがあります。

少し難しい漢字には振り仮名付きで、小学4年生ならだいたい読めそうです。

2025/04/06

「天動説の絵本」てんがうごいていたころのはなし

地球は丸い。地球は太陽の周りを回っている。こういうことは、今や小さな子どもでもいつの間にか知っている当たり前のことです。しかし、それは当たり前ではない時代がありました。その時代を、安野光雅さんが「天動説の絵本」に描いています。

安野光雅 作、福音館書店
銀の絵筆賞

地球が太陽の周りを回っている地動説を理解するための絵本を探し、この本にたどり着きました。
天動説が信じられていた時代には、世の不思議や迷信、未知への恐れであふれていました。そこに探求心のある人たちも次第に生じていきます。そして地球が丸く、地球は太陽のまわりを回っていると気付いた人たちへの悲しい弾圧。地球が丸くて動くことを証明したいと行動する人々の勇気。その時代の人々の心の揺れが伝わり、天動説が覆される時の緊張を垣間見、疑似体験するような感動を覚える本です。人々の地球の認識の大変革が描かれています。

安野さんはあとがきの一文にこう記しています。「天動説を信じていた昔の人々がまちがっていたことを理由に、古い時代を馬鹿にするような考え方が少しでもあってはいけません。」そして、あとがきをこう結んでいます。「・・・そうした歴史を思うと、『地球は丸くて動く』などと何の感動もなしに軽々しく言ってもらっては困るのです。この本は、もう地球儀というものを見、地球が丸いというものを前もって知ってしまった子どもたちに、今一度地動説の驚きと悲しみを感じてもらいたいと願ってかいたものです。」
壮大な歴史に向き合った作品のあとがきを、しかと受け止めました。今となっては当たり前の事実が生み出されるまでの事をおろそかにしないよう、この本を大事に読み継ごうと思いました。

以前、美術館にて安野光雅さんの作品展を観ました。私が小さい頃に読んだ絵本や大人になって手に取った絵本の作品もあり、たいへんな親しみを感じながら鑑賞できました。安野さんの作品は落ち着いたたたずまいで優しさがにじみ出ていて、細やかな描写を眺めていると、ゆったりと時間が流れていきます。そして、その穏やかさの中に、既存の概念を打ち砕く驚きに満ちた作品がたくさんあります。
地動説を理解するための絵本を探してたどり着いたのは、天動説を信じた時代の視点から描かれた「天動説の絵本」でした。この視点も私にとっては意外な驚きで、同時に安野さんの優しさと情熱が注がれた傑作だと思っています。

次回は、創造主が生物を作ったと信じられていることを覆し、宗教界から反発されたダーウィンについての本を書きます。

2025/04/04

「夢を追いかけろ クリストファー・コロンブスの物語」

コロンブスは、家業を継いで毛織物職人になることではなく、困難な夢を描いていた。マルコ・ポーロの「東方見聞録」に魅了されたコロンブスの夢は、ジパングを目指して西への航路を開拓することだった。天動説が支持されていた時代、はるか西への航海の先は未知の世界。周囲の人々に無謀だと言われながらも信念と熱意を訴え続け、ついに航海に出る機会を得たコロンブス。そして、月日を経てコロンブスはついに上陸する。コロンブスの新大陸発見までの物語。

ピーター・シス 作、吉田 悟郎 訳
ほるぷ出版
絶版になりました

コロンブスがジパングを目指す夢を抱き、上陸に至るまでに焦点を置いている物語です。ただし、コロンブスが上陸したのはご存知の通り実はアメリカ大陸でした。
フレスコ画の技法に似た技法で描かれたという絵は美しく繊細で深みがあり、巧みな想像力に満ちています。歴史を語るのにふさわしい丹念な絵であると同時に、愛嬌のある親しみやすさがあり、心踊る楽しい絵です。
すべての漢字にはふりがなが振ってあります。
小学生から中学生向けかと思います。
最近になって、コロンブス上陸後の侵略行為が残虐で問題視されており、コロンブスを知るには夢を追って偉業をなした面だけでは済まされなくなっています。ここには書きませんが、問題の面も知る必要があるでしょう。

コロンブス航海の予備知識として、当時は天動説が常識とされ、皿のように平らな世界だという概念だったこと、しかし船乗り達は地球が丸いことに気付いていたことを知っておくと、より理解が深まると思います。そしてコロンブスなどの大航海によって、やがては地球が丸いことが証明され、太陽が地球の周りを回っていると考える天動説から、地球が太陽の周りを回っているという地動説が唱えられていくようになります。
この一連の流れについては「天動説の絵本」がたいへん参考になると思います。次回は「天動説の絵本」について書きます。

以下の人物の年表は参考までに。

クラウディオス・プトレマイオス(83年頃~168年頃)
天動説を唱え、16世紀まで支持される。

マルコ・ポーロ(1254年~1324年)
1298年「東方見聞録」を出版

クリストファー・コロンブス(1451年~1492年)
1492年 新大陸を発見する

ニコラウス・コペルニクス(1473年~1543年)
亡くなる直前の1543年に地動説を唱えた。

ガリレオ・ガリレオ(1564年~1642年)
地動説を唱えて迫害された。

ジョルダーノ・ブルーノ(1548年~1600年)
地動説を唱えて1600年に火刑に処せられた。

2025/04/02

太宰治 作、戸田幸四郎 画
 戸田デザイン研究室
目の前で次々と展開されていくかのような臨場感あふれる文章に圧倒され、手に取るように伝わるメロスの気持ちに鼓動が高鳴ります。長い文章もじっくり聞ける年頃になったら読み聞かせたい名作です。
どんなに強い人でも人知れず迷う時があるのに違いありません。メロスがくじけそうになり葛藤する事細かな描写や、ついに友と対面し、次第に気持ちが洗われ爽やかになっていく感動の場面といった、メロスの心の激しい揺れ動きを子供達にも感じとって欲しいと思います。絵本という近寄りやすさで名作を堪能できる、ありがたい作品です。
「走れメロス」の文章は日常聞きなれない言葉の嵐です。しかし、話の流れは子供達にも伝わるはずです。言葉は生きているとは言え、明確さに欠け、乱れ、貧弱な言葉もあふれる世の中の言葉を浴びている子供達にこそ、学校で学ぶのを待たずに読み聞かせたい「走れメロス」。太宰治の一気に読み通さずにはいられないこの作品は、一つ一つ熟考して選んだ言葉は強い力を持つことを子供達に付き付け、考えさせるきっかけになるのではないでしょうか。
戸田幸四郎さんの大胆で力強い筆遣いの挿し絵は、畳み掛ける文章から湧き出る読み手聞き手の想像力を妨げず、膨らませてくれます。

原文に忠実に作られた絵本です。
すべての漢字にはふりがなが振られ、難しい言葉は(カッコ)の中に説明を加えてあります。
ただしカッコ内の漢字はふりがななしです。