2025/06/30

「はだかの王さま」バージニア・リー・バートンが描く

新しい服が何よりも好きな王さまのもとに、二人のはたおりが来ました。
彼らはこの上なく美しい魔法の布を織ることができ、
その布で作った服は、役目にふさわしくない者や愚かな者には見えず、
賢くて役目にふさわしいものにだけ見えるのだという。
王様は、その魔法の布で服を作らせれば、誰が利口で誰が愚かなのかたちまちにわかると思い、さっそく仕事を命じました。
ハンス・クリスチャン・アンデルセン 作、バージニア・リー・バートン 絵
乾侑美子 訳
岩波書店
絶版になりました


「裸の王様」という言葉は比喩としても用いられるので、子ども時代に読み聞かせておくと良いと思います。「裸の王様」の意味は、広辞苑によると「高い地位にあって周囲の反対がなく自分の思いがすべてかなうため、自己を見失っている気の毒な人のこと」だそうです。 
バージニア・リー・バートンの描く「はだかの王さま」は、始終和やかで楽しそうな雰囲気なのが特徴です。はたおりが抜かりなくだまし通す様子と、はたおりの仕事を見に来ては困惑する者たちの心情が滑稽に描かれ、楽しくわかりやすく読み進められます。気の毒な王様は最後の最後までチャーミングに思え、馬鹿にするすきも与えぬくらい、愛らしい物語になっています。「はだかの王さま」を読むならこれがおすすめです。

すべての漢字には振り仮名付き。
小学3年生くらいからの音読学習にも良いと思います。

2025/06/28

「めんめん ばあ」赤ちゃんから楽しめる絵本

「めんめ いない いない めんめ いない いない いない いない いませーん めん めん」 「ばぁー!」
生きものたちの、優しい顔が出てきます。  

長谷川摂子 文、柳生弦一郎 絵
福音館書店

 
 

 いないいないばぁーの絵本はたくさんあり、どれも赤ちゃんは大好きです。本物の人間のいないいないばぁーと、絵本の世界のいないいないばぁーとの違いを、赤ちゃんはどのように感じながら見るのでしょう??
左のページは薄い桃色の言葉のページで、聞き慣れたいないいないばぁーよりも「いないいない」を反復する文です。上記の通り、だいぶ繰り返してタメ込んでいますね。ずっとこの繰り返しです。右側には柳生弦一郎さんの大らかな絵が描かれています。2、3色で色塗られたシンプルな絵です。  

2025/06/26

「もりのかくれんぼう」隠れた絵を探すのが楽しい絵本

けいこがお兄ちゃんと一緒に公園から帰る途中のこと。
お兄ちゃんは、家まで競争しよう、と言って生垣をくぐって行きました。
けいこが追いかけていくと、生垣の向こうには森が広がっているのでした。
けいこは森でお兄ちゃんを探すうちに「かくれんぼう」という子に出会い、
彼と森の動物たちと一緒にかくれんぼを楽しみます。

 
末吉暁子 作、林明子 絵
偕成社
 
ひっそりとした森の中に入った時に感じる、現実離れした少し怖い雰囲気。ひょっこり何かが出てきそうな緊張感。この物語では、その予感が的中するようにファンタジーが繰り広げられます。見失ったお兄ちゃんを探し、勇気を出して森の中を進んで行く「けいこ」は、森で出会ったみんなと、いつの間にか楽しいかくれんぼをして夢中になります。読者も、黄金色の森の絵の中に隠れたみんなを探すのに夢中になるはずです。

2025/06/24

「たいせつなこと」

「スプーンは たべるときにつかうもの
てでにぎれて くちのなかに あうんとおさまり・・(中略)・・ 
でも スプーンにとってたいせつなのは
それをつかうと じょうずにたべられる ということ」
「りんごはまるい  りんごはあかい
したくのできたりんごは きから ぽたんと おちてくる・・(中略)・・ 
でも りんごにとってたいせつなのは たっぷり まるい ということ」
(「たいせつなこと」から抜粋して中略の上引用しました。)

 
マーガレット・ワイズ・ブラウン 作、レナード・ワイスガード 絵
内田也哉子 訳
フレーベル館


花や虫、雨や風などの自然の中のもの、グラスやスプーンなどの身近な物について、深く味わい、その特性と一番大切なことは何かを語りかけています。愛情を持ち五感を駆使した味わい方、それ自体が、人が大人になっていく上で不可欠な「たいせつなこと」として最後の場面につながります。その最後に取り上げられている物事は『あなた』です。『あなたは あなた』『 でも あなたにとってたいせつなのは 』この後に続く言葉が絵本の締めくくりの言葉となります。何でしょう?思っていることと同じかもしれません。
内田也哉子さんの日本語訳は、選び抜かれた一つ一つの言葉があらわす物事の状態や雰囲気、音や形、温度や感触などが心地良く伝わって響いてきて、美しいと思います。また、温かみのある優しい絵は、気持ちを穏やかにしてくれます。この本に使われている紙は、表紙も中身も画用紙のさらりとした質感を思わせる紙質です。この感触も私は好きです。
原作ができたのは何十年も前ですが、普遍のことが題材なので古さは感じられません。ずっと読み継がれていって欲しい素敵な絵本です。

すべてひらがなとカタカナで書かれています。
小学1、2年生の音読学習にもぴったりです。
学校で詩を学ぶ際の参考にもなると思います。

2025/06/22

「泣いた赤おに」日本の童話名作選

ある山に住む優しく素直な赤鬼は、人間と仲良くしたいと思っていた。
しかし人間は赤鬼を怖がり、近寄ろうともしない。
すると仲間の青鬼は、赤鬼は優しく安心だと人間にわからせる方法を提案する。
人間の家で青鬼が暴れ、それを赤鬼が退治してみせるのだ。
青鬼はすぐに実行し、思惑通り、赤鬼と人間は仲良くなることができた。
一方、悪役を演じた青鬼は、
赤鬼のために自ら姿をくらましてしまうのだった。
   
浜田広介 作、梶山俊夫 絵
偕成社


青鬼が赤鬼のために下した切ない決断に、どれだけの人が涙したことでしょう。自分とは違う者への先入観と恐れ。何かのために別の何かが犠牲になるという事実。他に手立てはなかったのかというもどかしさ。このような身近な難題を盛り込んで、人間や鬼たちの心情の変化が繰り広げられます。「泣いた赤おに」の本は何種類も出版されていますが、私は梶山俊夫さんが挿絵を描いたこの絵本に特に引き付けられました。表紙の、旅立ってしまった青鬼を思って山々の中で独り悲しむ赤鬼の姿は、「泣いた赤おに」の読後感そのものだと思います。 

原作全文が載っています。
使われている漢字は、主に小学1、2年生で習う漢字の他、3年生で習う「客、苦、板、柱、皮、庭」などや、4年生で習う「松」が出てきます。
すべて振り仮名付きです。
小学2、3年生以上のお子さんの音読学習にもいいと思います。

2025/06/20

「勇気」

「こんなにいろんなゆうきがあるんだ。すごいのから、そう、いつでもやれるぼうけんまで。でも、どれもが、りっぱなゆうき、ゆうき。」
(冒頭の文を引用しました。)

バーナード・ウェーバー 作、日野原重明 訳
ユーリーグ 
絶版になりました


子供も大人も、年代を超えて心が動かされる絵本です。日本語に訳された日野原先生によるあとがきも必見です。 
様々な「勇気」ある場面が次々に紹介されています。例えば私が好きなのは次のささやかな場面での言葉です。「チョコレートバーのひとつは、明日に とっておくのも勇気」 「買ったばかりのズボンが破れた訳を、正直に言うのも勇気」 その他、我慢や気持ちの入れ替え、思いやり等と言いたくなる場面も、「勇気」という言葉で表現しています。「勇気」に置き換えると、その行動は前向きで立派で、たくましく思えてくるから不思議です。なるほど、日常の些細な事にでも、乗り越えた時に「勇気」という言葉でたたえれば、同時に誇りや自信を与えることもできるのですね。勇気に満ちたアメリカのヒーローもその些細な一歩から! と想像し納得します。アメリカの絵本らしくていいですね。

すべてひらがなとカタカナで書かれています。
英文も併記されています。

 日本語版は絶版ですが、原書は変わらず販売されておりアメリカでは高く評価されているようです。

原書:  Courage, by Bernard Waber, 2002



2025/06/18

「もぐらとずぼん」クルテクの絵本

素敵なずぼんを見かけたもぐらは、同じものが欲しくて奔走します。
どうやって手に入れることができるのかを尋ね、
作り方を教わり、たくさんの協力を得て、
ついに憧れのずぼんとそっくりの作品が完成します。

エドアルド・ペチシカ 文、ズデネック・ミレル 絵、うちだ りさこ 訳
福音館書店

 

チェコの人気キャラクター、クルテク(この絵本にこの名は出てきません)が、さまざまな生き物たちと出会い、彼らの得意な技術の恩恵を受けながら、欲しいものを手に入れるために一生懸命に行動します。そうして出来上がったクルテクにぴったりのずぼんは、特別な思い出でいっぱいの自慢のずぼんです。 
私は子どもの頃にも読みました。複雑な色彩を巧みに調和させた美しい色使いと、柔軟で張りのある躍動感みなぎる生き物たちの姿は、くっきりと印象に残りました。また、クルテクに協力する生き物たちのずぼん制作風景は幻想的でありながら違和感がなく、本当に生き物たちの力を借りてずぼんが作れるんじゃないかと、度々まじめに想像したものでした。そして、現実に亜麻からリネンが作られ、こけももなどを用いて草木染ができることを知る度に、この「もぐらとずぼん」の制作過程と同じであることを思い出しました。 
ファンタジーに織り込まれたリアルの絶妙さ、もぐらのクルテクの好奇心と熱心さ、協力してくれる優しい仲間への感謝の気持ち。読む人たちにいつまでも伝わることでしょう。

 もの作りを一から描く絵本は、「ペレのあたらしいふく」もどうぞ!

2025/06/16

「ペレのあたらしいふく」

ペレはウールの服を新調することにしました。
自分の羊の毛を刈り取るところから始めるのです。
刈り取った毛を服に仕立てるには大人の助けが必要ですが、
ペレは自分で労働する対価として大人の協力を得ます。
そうして羊の毛は毛糸に、布地に、そして立派で素敵な服に仕上がっていきます。

   
 エルサ・ベスコフ 作、小野寺百合子 訳 福音館書店 

 

『ペレのあたらしいふく』を通し、ものを手に入れることの意味や、もの作りの一例をひと通り確かめていくことができます。また、お金やものを得るためには労働をしなければならないことをペレは当たり前に知っており、行動します。最後の場面では、服作りに協力した大人たちがペレを見守るように勢ぞろいします。私はこの場面が大好きです。
ものには作り手がいて、かかわる人がいて、ようやく欲しい人の手元にたどり着きます。ものの背景にある様々な経緯や背景に思いを馳せ、感謝し大切に使っていく。これができてこそものの価値がわかり、使う人に豊かな気持ちをもたらしてくれるのだと思います。

もの作りを一から描く絵本は、クルテクの絵本「もぐらとずぼん」もどうぞ!

2025/06/14

「太陽をかこう」

ブルーノ・ムナーリ 作、須賀敦子 訳
至光社

『太陽をかこう』を読む前と後では、子供たちが描く太陽の絵がどう変わるのか楽しみになります! ムナーリ氏が子どもたちに魅力的な美術教育を行っていたことが伝わってくる、まるで絵の「教科書」のような一冊です。 文体はユーモアがありつつ美しく、すっきりしていて心地良いです。 最初に語られるのは、太陽の性質や光の色の変化、作り出す影、そして雲や霧、スモッグ越しに見える太陽。いつも地上の誰かに光を注いでいる存在として、太陽の魅力を再確認させてくれます。また、日食についても言及されており、太陽観察の際に触れるコロナと黒点という事象も印象的に描かれています。 そしていよいよ、様々な芸術家や子供たちが描いた太陽、そしてムナーリ氏が描く様々な手法の太陽の数々が紹介されています。太陽はひとつ。でもどう見えるかは見る人次第。どう描き出すかも実に自由で、演出次第でドラマチックに表現できることを、『太陽をかこう』は教えてくれます。あとは実践あるのみですね! 

すべての漢字にはふりがなが振ってあります。

2025/06/12

日本の神話 第六巻「うみさち やまさち」

兄の海幸は海の魚を釣るのが仕事。
弟の山幸は獣を捕るのが仕事。
ある日、山幸は、海幸に仕事取り替えようと申し出て、喜んで海へ行く。
ところが、獲物はかからず釣り針もなくしてしまった。
海幸は怒り、山幸が自分の剣で釣り針を作って差し出しても受け取らない。
山幸が浜辺で泣き暮れていると、潮の流れを司る神が現れ、山幸を小舟に乗せて海の神・綿津見(わたつみ)の神の宮殿へと導いた。
海底の宮殿で山幸はもてなされ、綿津見の姫を嫁に迎えた。
幸せな暮らしが三年経ち、山幸は釣り針の話を打ち明ける。
すると綿津見の神は釣り針を見つけ出し、海幸に返すよう言い渡すと共に、
いざという時に使うよう、潮満玉と潮乾玉を授けた。
山幸はサメに乗って国へ戻り、釣り針を海幸に返す。
水を操る綿津見の神は海幸の田に水を与えず、海幸は困窮し、山幸を討とうとする。
その度に山幸は潮満玉で水を呼んでは海幸を溺れさせ、 潮乾玉で水を引かせては命を救った。 
海幸はついに降参し、山幸の宮殿に仕える者となった。

 
赤羽末吉 絵、舟崎克彦 文
あかね書房

海底の宮殿の絵について、折込付録に説明があります。山幸が海底の宮殿から帰るのに乗ったサメの泳ぐ速さとして「一日で浜まで泳ぎ着くことができる」というくだりがあることから、南方の海宮として描かれたそうです。海底の描写はパッと鮮やかで華やかです。
この第六巻「うみさち やまさち」が「日本の神話」の最終章です。日本の絵本に貢献された赤羽氏の絵による、膨大な資料と現地取材による考察をもとに作られた6冊は、古事記に記された日本の文化を知り、伝えるのに役立ちます。

赤羽末吉 絵、舟崎克彦 文
あかね書房

2025/06/10

日本の神話 第五巻「すさのおとおおくにぬし」

黄泉の国に到着した大国主は、先祖であるスサノオを訪ねた。 
出迎えたのはスサノオの一人娘、須勢理姫(スセリヒメ)。
須勢理姫は一目で大国主に心を奪われた。 
これを見抜いたスサノオは、大国主を蛇の部屋へ通させた。 
部屋では蛇の群れが大国主に襲い掛かろうとしたが、 大国主は姫からもらった「蛇の布」で蛇を見事に退治した。 
その後もスサノオは次々と試練を与えたが、大国主は切り抜け、ついにはスサノオを感服させることとなった。 
大国主は姫を連れて出雲に戻り、兄弟である八十神たちを追放。
末永く国を治めたという。

赤羽末吉 絵、舟崎克彦 文
あかね書房

豪快なスサノオと、どっしり落ち着き頼もしい大国主との駆け引きが面白い神話です。

2025/06/08

日本の神話 第四話「いなばのしろうさぎ」

荒くれ者として知られるスサノオの子孫にも、大国主という気立ての良い神がいた。
大国主には八十神と呼ばれる兄弟達がおり、因幡の国の八上姫を嫁に迎えるため、皆で出雲の国を旅立った。
やがて八十神たちは皮をはがれたウサギに出会う。
彼らはウサギに、「海水で体を洗い、風にさらされれば元通りになる」と教えて立ち去った。 
それを信じたウサギは苦しみ、そこに遅れて大国主が通りかかった。
ウサギは、サメをだましたために皮を剥ぎ取られたのだと告げた。
大国主はウサギの体を治す方法を教えると、ウサギは回復し、「八上姫を嫁にするのは大国主だ」と伝えた。
やがて、八上姫が大国主に嫁ぎたいことを知った八十神たちは、大国主の命を執拗に狙う。
逃げ場をなくした大国主は、スサノオのいる黄泉の国へ向かう決意を固めた。

 
赤羽末吉 絵、舟崎克彦 文
あかね書房


「いなばのしろうさぎ」に登場するワニについては諸説ありますが、赤羽氏は出雲での取材を経て、最終的にワニ鮫というサメとして描くことに決めたそうです。サメの姿で描かれていることで、違和感がなくわかりやすいと感じました。また、「しろうさぎ」は真っ白ではなく、薄い茶色で描かれています。この色合いも考察を重ねられたうえに決定されたそうです。いずれも折り込み付録で詳しく解説されています。
私自身、「いなばのしろうさぎ」といえば真っ白のウサギが出てきて、日本の海にワニが出てくる、という印象がありましたが、この絵本と折り込み付録の解説を読み、秘密を教えてもらったような嬉しい気持ちになりました。膨大な資料を手繰り寄せて絵本を作って下さった赤羽氏と舟崎氏に感謝の気持ちでいっぱいです。鋭い子どもたちにも、どうしてワニが?? と聞かれずに楽しんでもらえる話です。

2025/06/06

日本の神話 第三巻「やまたのおろち」

高天の原を追われたスサノオは、地上を旅して出雲の国にたどり着いた。
そこで、櫛稲田姫が「やまたのおろち」のおとりとなることを知る。
スサノオは姫を救うため、おろち退治に挑む。
スサノオは太刀でおろちを切り刻むと、その尾から剣が現れた。
この剣をスサノオは天照大御神への詫びとして献上し、
姫を妻に迎えて出雲で幸せに暮らしたのだった。

   
赤羽末吉 絵、舟崎克彦 文
あかね書房


日本の神話全六巻のうち「やまたのおろち」は第三巻ですが、最初に制作された作品だそうです。折り込み付録によると、従来は「やまたのおろち」は蛇として描かれるのが通説だったところを、赤羽氏は膨大な文献の調査と現地取材を重ね、龍蛇として描くことに決めたそうです。櫛稲田姫についても、従来は櫛に変化(へんげ)しスサノオの髪に身を隠す描写が一般的でしたが、現地取材に基づき、変化させず、おとりとして立つ姿で描くことに決めたのだそうです。また、登場する一般人の服の色も従来とは異なり、麻色に根拠をもって設定。おろちを迎え撃つ酒の造り方にもこだわりが込められています。

2025/06/04

日本の神話 第二巻「あまのいわと」

激しく荒れくれて世の中をすさませたスサノオは、
天照大御神の治める高天の原をも荒らし、
見かねた天照大御神は天の岩戸に身を隠してしまった。
日の神、天照大御神が消えたことにより、世の中は闇に包まれて混乱する。
高天の原の神々は知恵を結集し、ようやく天照大御神を岩戸の外へ導き出すと、世の中は光を取り戻し、秩序がよみがえった。
スサノオは高天の原を追い払われてしまうこととなった。

赤羽末吉 絵、舟崎克彦 文
あかね書房


荒れ狂うスサノオと神々しく潔い天照大御神。また、世の民の闇への失意と、太陽への恩恵の念と崇拝。対照的な話の筋が面白い神話です。 

2025/06/02

日本の神話 第一巻「くにのはじまり」

天の彼方に神の国、高天の原(たかまのはら)があり、そこは天之御中主(あめのみなかぬし)の神が治めていた。
その子孫である男神 イザナギと女神 イザナミは、天と地の間にかかる天の浮橋に立ち、天の沼矛(あめのぬぼこ)を使って海をかき混ぜた。
すると海上にオノゴロ島が生まれ、二人はそこに降り立ち結婚し、多くの子ども達 ―― 島々と神々が生まれた。
しかし、イザナミは最後に火の神を生んでやけどを負い、命を落として黄泉の国へと旅立ってしまった。
悲しんだイザナギは黄泉の国を訪れるが、そこで腐り果てたイザナミの姿を目にする。
怒ったイザナミは女鬼や雷神にイザナギを追わせるも逃げ切られる。
ついにはイザナミ自ら追いかけようとしたが、イザナギは黄泉の国を脱出し、出入り口を岩でふさいで閉ざした。
岩を隔てて、イザナミは「一日に千人を殺す」と言い放ち、イザナギは「一日に千五百人を生ませる」と言葉を交わす。
こうして世では、一日に千人が死に、千五百人が生まれるようになったという。
イザナギは水辺で死者の国のけがれを洗い清めると次々に神が生まれた。
中でも天照大御神には高天の原を、月読神には夜の国を、スサノオの命には海上を治めさせた。
赤羽末吉 絵、舟崎克彦 文
あかね書房


日本の神話は全六巻からなり、第一巻が「くにのはじまり」です。最初に出版されたのは第三巻「やまたのおろち」で、第一巻は最後に出版され、着手後7年目に全巻が完成したそうです。古事記を絵本化するにあたり、赤羽氏らは膨大な資料を解釈し、時間と情熱をかけて作成されました。日本の神話を絵本で読むならば、この全六巻が最も深く語りかけてくると思います。
私が子供の頃に読んだ本のイザナギを追うイザナミの絵は恐ろしく、怖い印象が強く残ってしまいましたが・・・、赤羽氏の絵はそんなに怖くはありません。怖さよりも物語をわかりやすく語る絵だと思います。
折り込み付録の中で赤羽氏は、絵本の絵について、「絵は文の言わんとすることを掘り下げて、それを絵画的にイメージアップさせて、そのドラマの心を読者に訴えるものでなくてはならない」と書かれています。視覚的にドラマの核心をつくよう演出するのだそうです。赤羽氏の絵によって物語が読み手にまっすぐ届くのは、その演出の効果なのですね。